暗く成るのを待ってパルに行きましたの。バルセロナで日が落ちるのは今の時期ですと8時過ぎに成りますのよ。

   「 何時もだと昼前に行く様にしてたな。夜行くのは昨日が初めてだったから、まだ噂に成って居るだろうな。」

   「 好い気持ちはしませんのね。バルセロナで馴染むのって大変なんですのね。」

   「 なーに、何時かは身元をハッキリしとかねばとは想ってたのさ。他のパルでも噂に成って居るとは思って居ないのさ。レイ・ファン・カルロスに長期滞在してるのは、従業員から流れてる筈なんだ。噂ってのは何処の国でも同じなのさ。特に此処は、昼の顔と夜がハッキリ別れて居るだろう。市場で値段が書いて無いのは相手に拠って売値を決める習わしに成って居るのさ。日本でも一元さんには其れなりの支払いを求めて来るだろう。其れと似たところが有るのさ。」


   「 其んなだとは知りませんのよ。珠樹ってケチが徹底してますから、ヨッポドでないとお買い物はしませんでしょう。今はランジェリーだって貴男のお好みで揃えて下さるでしょう。ですからお値段に執着し無くても不自由しませんのね。少しずつ覚えて行かないと―――」

   「 ムリするなよ。何処でも観光プライスは付き物だが、バルセロナは特別だな。カサ・バトリョは繁華街の真ん中にポツンと取り残されたゴシック建築の一画に、繊維業者が屋敷を構えたのが始まりなんだ。だから住むのに便利な反面、意外に落ち着いた一画なのさ。エンサンチャ病院が近いから便利なんだが、其れだけでは無いぞ。繁華街に居れば商店の噂は感じられるのだが、此れからは用心に越した事は無いのだぞ。まあ、あの三人組が何を吹いて呉れるのかは此れからの興味として置くのだな。」


   「 珠樹も其の心算よ。貴男の陰に居れば、余計な風は気にし無いで居られるでしょう。平気よ、聞こえないフリをするのに慣れてるのよ。東洋人が少ないから、其れだけでも噂に成るのは承知してますのよ。若いくせに年単位で考える癖が着いてるのですもの。何でも見てるだけが気楽なのを此れからも続けようと思ってるのよ。」

   「 そうか、余裕が無いと兎角動き回る物なんだな。ジッとして様子を見定めるのは意外に難しい物なんだ。珠樹に其れが出来るのは前から知って居るさ。まあ、ドジな位後追いをして見るのも悪くは無いな。」

   彼が大きいでしょう。お体の事よ。ですから風よけには持って来いなのよ。珠樹は陰に隠れて噂を遣り過ごす心算ですのよ。