此のラーメン屋は知ってたんだ。十文字の体育館と講堂の工事が始まってから、何度も裏から抜けて巣鴨のヤッチャ場を見に来たことが有ったのさ。
ヤッチャ場の前には35番の都電が走ってたね。十文字高校と庚申塚の間に都電の車庫が有ったので、路線がどんどん廃止されても田村町が終点の35番は残って居たのさ。
巣鴨駅前が中山道だったのに、ドウ言う訳か
中山道とは言わずに日光街道って言われてたんだ。中山道は日本橋を起点とする国道だったのに、信州を横切って京都と通じてる街道が、新宿起点の甲州街道とされてたのさ。
僕の独断にしとくけど、日光街道は利根川の荒れるに任せて寸断されてたと思うのさ。だから日光街道を修復して中山道としちゃったらしいんだ。埼玉県の人たちには悪いけど、当時の埼玉って荒川の遊水地に利用されてた見たいなんだよ。
荒川の堤防は東京側の右岸は高く出来てたので、大雨が降っても東京は洪水から守られて居たのさ。何時も埼玉県側の堤防が決壊して、屋根まで水浸しに成っちゃうのさ。
其れだけでは無かったけど、当時の埼玉って東京と栃木・群馬を結ぶ荒れ地にされてたんだね。
だからB29の空襲では、いち早く旧日光街道と35番の都電の間を疎開道路にしちゃったのさ。其れが其のまま開成道路に成ったって仕組みなんだよ。
何時も乍ら諄くてご免なさい。
言いたいのは巣鴨の車庫の先に野菜市場が有ったって事なのさ。開成道路で街が分断されてたので、何も無い処に野菜を運んで来たお百姓さん目当てのラーメン屋が有ったのを言いたかったのさ。
店とも言えないトタン屋根の食堂だったよ。何しろ格安でしょう。ボリューム満点だから僕には向いてる食堂だったんだ。其処を娘たちが根城にしてたので驚いたのさ。
いや、見事な食べっぷりだったね。
ラーメンライスに煮物を取るのは僕だけかと思ってたんだ。其れがドッコイ、娘たちも同じにしてペロッと平らげちゃったのさ。
「 知らなかったわ。テッキリ十文字の食堂でお昼を済ませてると思ってたのよ。皆んなの半面を見た想いなのよ。」
ドウやら楠さんは知ってた見たいなんだ。
「 好いんだよ。皆んなと並ぼうとしても無理が有るのさ。楠さんはどっちかと言うと娘に併せるので無理してたところも有るのさ。今は僕たち3人でテーブルを囲んでるでしょう。先ず楠さんから得意のスタイルに戻って貰えば、皆んなも自分らしさを取り戻すと思うのさ。出来るだけ根津に居る様にするよ。見てれば判るでしょう。10人と僕たちの垣根は無理にこじ開けたら可笑しく成るのさ。
オジン・オバンの三人組にも夫々の役割が有る筈なんだ。此の食堂だけが娘たちの城では無い筈なのさ。十文字に居ても自分たちに合う場所を見つけて居たのが彼女たちの本質かも知れないでしょう。
無理に併せなくても自然の流れが出来る筈なんだ。楠さんを放っといた埋め合わせも考え様よ。」
其んなの出来っこないとマリーの顔に書いて有ったよ。マリーには判らない楠さんの裏人生が有るのだよ。
埋め合わせってお金なんだよ。マリーはお金に気取ってるのさ。言い方が悪いけど、楠さんはお金に大事なおまんこを開いたんだ。
マリーは吹っ切れない顔つきだったけど、ストレートにセックスをお金に換えた経験が無いのさ。だから楠さんの想いを云ったら拗れるだけなのさ。何れは生きる道なり、お相手さん成りを見付けて来るでしょうね。お祝いはして挙げるよ。何でってのがゆっくり時間を掛けて、会計係のマリーを説得するのさ。お金って使い様に拠っては後々問題を残したり、兎角不仲の元に成る時も有るのだよ。