「 高輪の大きなお湯殿が懐かしいわ。一度還って娘に見せたいのよ。」

   「 帰っても門前払い食うだけさ。もうコンツェルンの当主は換わって居るのだ。俺なんか死んだことに成ってるだろうさ。」

   「 不思議ね、レイ・ファン・カルロスの契約はマドリード支局が遣ったのでしょう。まだ岩崎商事との繋がりは有るのでしょう。」

   「 其れが違うのさ。日本に帰るとヤヤコシイ事に成るだろう。だからバルセロナに囲って置こうとしてるのさ。スペイン支局は仕事が無い支店なんだ。だから俺の死に場所として見張ってるのさ。」


   「 それにしても可笑しいわね。何時か仰ってたでしょう。

         スイスの口座の2000万ドルスペイン支局に移しといたって。

     まだ世界中の岩崎の口座は名義変更して無いのね。」

   「 いや、全部手続きは終わってるさ。商取引にはキックバックが付いて来るのさ。表に出せない物は個人名義で世界中に残って居るのだ。敗戦と同時に全部接収されたんだが、中立国の南米の国にはまだかなりの物が其のままに成って居るのさ。何れはお前と娘の口座に移して置くが、ブラジルだけでも驚くほどの額には成って居るのだ。奴の退職金も其の一部なのさ。」

   「 アリガトって言わねば成りませんのね。」

   「 何を何をだな。此れから何人家族に成るかも知れないのだぞ。母親のお前が預ける親も居ないのだろう。

         おしめの交換位なら俺にも出来るが、

子供って一人が風邪をひくと全員同じに成るのだろう。俺はしっかりしてる心算だが、エンサンチャ病院では偉い失態を見せたからな。

   どうも病気には弱い様なんだ。」

其処までお考えに成るのはドウかとは思いますのよ。

         もう、何人もの家族を思い描いて居るのですもの。殿方って皆様其うかしら。