「 口数が少ない母でしたのよ。今思うと、何か言っても私には要らない愚痴に聞こえるからでしたのね。時々

        貴女は十人並み以上の娘なのよ。其の気に成れば広い世界が待って居るのよ

   だけでしたのよ。此れを言うのは何となく落ち込んで居る時なんですのよ。普段は無口なんですのに、此れを言われますと

        血が騒ぐと言いますか、何となく遣る気が出ましたのよ

   変わりましたのは終戦の8月15日でしたの。皆さん軍の集積所を襲う歓声の中で、

        貴女もお仕事を持つ訓練をしましょう

だけでしたのよ。着のみ着のままの母が連れて行って呉れたのが千住駅前の洋品店でしたの。確かヨーカ堂さんでしたのね。裏の木戸をこじ開けてセーラー服を手に入れましたの。母は素敵なワンピースを着て笑ったのを覚えて居ますのよ。其れからのお話しはし無くてもご存じでしょう。」


   ヤー様がお笑いに成ったのですのよ。

   「 そうか、お前の原点を話したいのだな。いや、俺から言うぞ。父親に成れば好いのだろう、待て待て、大分ガサツな父親だが25の珠樹に似合う亭主なら好いのだろう。なーに化けるのも楽しみなのさ。

        双子と言い通して来たが、腹の中ではお前にそっくりの娘が欲しいんだ。何処まで化けられるか自信は無いが、夫人には40までの畠山のパスポートを言って有るのだ、其れに併せるのは出来るだろう

   25の珠樹が協力して呉れるのならな。」

    仰りたいのはお腹の中まで響きましたのよ。

        権藤夫人に会っても何も言うな。様子を見様では無いか。奴もバカでは無いぞ。今まで俺と競って来たのを夫人に向ければ―――でしたのよ。