「 私って狂ってるのかしら。お腹の赤ちゃんが私を苛めなくても好いのにって憎らしいのよ。」

   「 うーん、俺もドウやらまともで無い気がするんだ。子供が欲しくてセックスしたんじゃ無いんだ。欲しかったのはお前なんだから、赤ん坊が邪魔するのが許せない気がするのさ。」

   「 ヘンなのよ。赤ちゃんが欲しいなんて思った事は無かったのよ。第一奥さんにして欲しいなんて一度も思った事が無いんですもの。」

   「 俺の責任なのかな。結婚は義務だとは思うが、一緒に居るのだから文句は有るまいと思って仕舞うのさ。男としては其れではいけないとでも言うのかな。」


   ご免なさい。差し込みがきつくて息が出来ないのよ。お薬が無いって何処に当たれば好いのよ。

        お医者は病気じゃ無いって逃げるけ

        ど、苦しんでる身に成って何とかして

        欲しいのよ

   「 済まん、此んなに成るのだったらコンドームを使えば良かったな。」

   「 其んなのイヤよって云ったでしょう。セックスするのに安全日だからとか危険だからなんて可笑しいと思ってたのよ。ウッ、少し変な感じなのよ。病院に行った方が好いのかしら。」

   「 救急車を呼ぼうか。」

   「 止して、其んな事をしたら追い出されてしまうわよ。でもつわりとは違う感じなのよ。怖いわ、此うまでして赤ちゃんが欲しくは無いわ。」


   正直参りました。相談すると言っても誰も居ない外国なんですから。

   「 済まない、俺の責任なんだ。昨日来た婦長に連絡するから少しの間我慢して呉れないか。」

   慌てると電話番号も見つからないんです。珠樹のバッグを逆さまにして診察券を取り出しました。

   「 繋がったぞ。婦長は1階だと言ってたな。頼む、出て呉れ。」

   ラッキーでした。繋がったのは好いのですが病院に来て呉れと連れない返事でした。

        連れてって流産でもしたら許さないぞ。

お前の病院は緊急の往診もし無いのか。日本大使館から告訴するから覚悟して置け

   電話で怒鳴って居る内にサイレンが聞こえました。エンサンチャ病院の救急車でした。


   もう、成りフリ構っては居られませんでした。珠樹の唇の色は消えて居たのです。ストレッチャーでエレベーターで降りるのがもどかしくて、母子手帳も診察券も財布すら忘れて救急車に飛び乗りました。

   

   病院の裏から救急室に入ったのです。外で待つ様に言われましたが落ち着いてなんか居られません。看護婦長が飛んで来ました。

   「 ドウなんですか。」

   「 今のところ何とも言えません。羊水が漏れて居ますから破水の恐れが有るのです。全力で遣って居ますが、奥様を援けるのに緊急の切開をすることも覚悟為さって下さい。此れが承諾書ですからサインして置いて下さい。」


   初めてだった。ドウ仕様も無い苛立ちなんだ。書類を読む気もし無かった。

        ドウしたら好いんだ。祈って救われるのならと生まれて初めて神様を想ったのさ。人間の弱さなんだな。医者や看護婦が飛び回って居るのも目に入らないんだ。情けないって無かったな。俺がしっかりしなければと思っても、いら立ちを抑えるしか出来ないんだ。


   何時間経っただろうか。婦長が笑いながら出て来たんだ。

   「 取り敢えず薬で抑えました。赤ちゃんに異常は有りません。急性虫垂炎です。珍しいケースですが、羊水が漏れた処置が先でしたので発見が遅れたのです。」

   何て事なんだ。盲腸だったとはな。

   「 このままで様子を見ます。虫垂炎が治まれば1階に移って貰います。珍しいケースですが、抑えて済む物かは日にちを掛けないと何とも言えません。入院は長く成るでしょうが、早く気が付いてラッキーでした。」

   ホッとしてへたり込んだのさ。お会いに成りますかと言われた様な気もしたんだ。情けないのは立ち上がれなく成ったんだ。婦長が脈を診て車椅子を持って来させたのさ。

       見えも外聞も無かったんだ。腰が抜けたと言うのかな。珠樹が居なく成るのしか考えて居なかったのさ。

        情けない意味が違うんだが、何とも呆然としたのが治まらないのさ。車椅子を押されて救急室のドアを潜ったのさ。