「 先生が付き添って居なくても好いのか。」
「 あの方は先生なんですのよ。高輪に居た時は珠樹が幼かったので先生が必要でしたのよ。もう成人しましたから先生は要らないと言うよりも、私が先生に成って差し上げてるのですのよ。」
「 何だ、高輪に居た時は幼かったと言うのだな。だとしたら子供に惚れた俺は何だろうな。」
今まででしたら此処でチュウが入りましたのね。でも可愛いお鼻をピンして終わりにしましたのよ。
「 教わる事って随分有りますのよ。ご主人のイー様は貴男がお認めに成っただけの殿方なんですのね。奥様とはスケールが違うんですもの。言って見れば珠樹と並んでお育ちに成りましたのね。あれ程聳えて居た弥太郎山を、イー様のレベルにまで二人がかりで引き落としましたのよ。あら、本気だって言ってるでしょう。嬉しくて泣きたいくらいなんですのよ。高輪にあのまま居たら妊娠しても2ヶ月の節制なんか私が出来なかったと想いますのよ。お考え下されば判る事なんですのね。高輪では何時も貴男の後ろで着いて居たイー様も、オリエントエキスプレスで貴男と地中海を眺めて居た時は、コンパートメントでお休みでしたでしょう。もう私たちの間に割って入るお役目は終わったとお思いなんですのよ。貴男とは40年のしがらみが有ったでしょうが、珠樹との6年もお別れに成るのをご承知なんですのよ。
では何処にお帰りに成るのかはそれと無く教えて居ますでしょう。パスポートに事寄せて奥様をお呼びに成りましたのは、お二人のスタートをお示しに成ったと想いませんか。
ですから珠樹は子供を卒業したと思って居ますのよ。」
「 いや、何も言うまい。言えないと言うのが本音なんだ。待てよ、では奴はお前と一緒に育ったとでも言うのかな。」
「 そうだと思いますのよ。聖心に行くのが8時前後でしたでしょう。柳橋に戻るのがお昼過ぎに成りますのね。珠樹は聖心一筋でしたのよ。敵に囲まれて居ましたら、他の事は考えられ無いのですもの。2・3時間経てば貴男が迎えに来て下さるでしょう。其の2・3時間は柳橋の戦いでしたのよ。其の合間に貴男の事を思い浮かべれば、迎えに来られるまで何をお考えなのかを必死に思いましたのよ。すると珠樹の中に構図が作られるのですのよ。24時間をイー様を入れての三人なんですのよ。判って下さいな。ビュイックの運転手さんにも助けられましたが、家族と思えるのは貴男とイー様しか居ませんでしたのよ。其の方がオリエントエキスプレスでハッキリ訣別の姿をお見せに成ったのですもの。何がドウ成って行くのかはお判りでしょう。」
思い切って言っちゃいましたのよ。彼とイー様とは40年のお付き合いが有るでしょうが、珠樹とて8年のしがらみは有りますのよ。此処2年でお別れとするよりは、想いの中から切り捨てて居たのでは無かったのですのよ。
母が7年で教えて呉れたのは別れるタイミングでしたのね。毎日が同じ事の繰り返しに見えても違うのを、スリと言う過酷な条件で教えて居ましたのよ。遺言何て生半可な教えでは無かったのですのよ。其の見方で見て居ましたら、イー様と奥様の間の壁が見えて居ましたのね。お呼びに成って奥様が仰る事は三人のお嬢様のお話なんですのよ。引き合ってる磁石を何で離なそうと為さるのでしょう
か。家とお金に決まって居ますでしょう。教わる事は多いのですが、無駄に成る事も捨てなければ成りませんでしょう。三人が二人に成ったのですのよ。やっと男と女で並べるまでに育ちましたのよ。下がって来たとは言え、マダマダヤーサマは雲の上のお人なんですもの。勝っ手に動きましたが、後は知りませんのよ。此れが珠樹の本音なんですのよ。