「 マリーと会うのは何日ぶりに成るかな。」

   「 金沢に立つ三日前だったから二週間会わなかったのね。」

   「 約束通りに追い掛けたんだ。東海道は雨上がりの穴ぼこだらけを知ってたんで、中山道から長野を廻ったんだ。思いがけない吹雪に見舞われて扉温泉の明神館で足止めに成っちゃったのさ。柳橋の女将さんが一緒だから行かなくてもって―――」

   「 もう少し上手にウソが言えないの。何時もだから慣れっこに成ってるけど、温泉でお楽しみだったのでしょう。」

   バレルのは何時もの事だったのさ。


    「 痴話喧嘩も好いけど、京都の話を聴こうよ。」

ったって、まともに話す筈が無いでしょう。だから先手を打ったのさ。

   「 今でもあの子たちは女衒に見つかるのが怖いんだよ。もう6年に成るけど、吉原が閉鎖されたのは1年後だったのさ。だから女衒も怖いと判ったけど、吉原のしごきの凄さも教えたら震えあがってたのだよ。」

   「 其んなの言われ無くても判ってるわ。あの子たちは当時の話は一切し無いのよ。忘れる様に務めてる見たいよ。」

   「 だから十文字の卒業式でケリを付け様としてるのさ。まだ判らないのかな。何度も言うけど三流の高校を選んだのは、目立たない様にする為だったのさ。今其の境目に来てるんだ。十文字を出れば大学に進むのが普通でしょう。進路指導で十文字の卒業ではまともな仕事に就けないのは言われてる筈なのさ。だから大学と成るんだけど、女衒に隠れて行くのは難しいのは悟ってる筈なのさ。

       何処の大学が好いとかってのよりも、

       仲間から離れる怖さが進路を決め兼ね

       てるのだよ

まだ判らない様だから、3カ月掛けて吉原遊郭の手口を教えたのを言っちゃうよ。」


   言わずに済めばと思って黙ってたのさ。楠さんを花魁の付け人の娘に見立てて、吉原で何をされるのかを実演して見せたのさ。楠さんも知らない残酷な遣り方だったのさ。言うのに憚られるけど、むしろ知らないで楠さんを根津の舎監として居る方が拙いんだよ。マリーは此れから僕の相棒として一緒に暮らすのなら全部知っといて貰わないと何かと困るのだよ。

   「 南部でも有るとは思うよ。道具を使うなんて出来なかったんだ。娘たちにジッと見させて半日は続けたんだよ。マリーもアボリジニに同じにされたとは―――ご免、つい口が滑ったよ。」

   「 好いのよ、何時かは話そうと思ってたのよ。忘れる様にしてるけど、何人を相手にして来たのか覚えて居ないのよ。功の激しいのとは違うのよ。何かの植物を使って火が付くように燃えさせて回されたのよ。血が出るのなんか何時もだったの。」

   拙いって無かったね。黙らせようとしたのに、喋り出したら止まらなく成ったのさ。大凡は知ってて逃げて帰った僕を言ってるのだよ。


   「 違うのよ。一度だって功を云ったことは無いでしょう。全部マリーがバカだったのよ。退職金も功が呉れた餞別の200万も、全部男に吸い上げられたのね。黒い肌を埋めるのにはお金しか無いってバカな女だったのよ。やっと落ち着いたから言おうと思ってたのよ。」

   「 あのね、マリーを呼んだのは今居る皆んなも同じ過去を持ってるのだよ。10人の娘たちと柳橋の女将さんはまだ浅い方なんだ。問題は楠さんなんだよ。吉原のホントを教えるので、あの人は実験台に成って貰ったんだ。泣きながら血が止まらなく成った事も有ったのさ。

       一時の情け心で女衒から連れてきた

       責任は大きいんだよ

って、吉原に行けば此うされるんだって、娘たちにチャンと見せて遣り捲ったんだ。プロとは言え子供の様な娘たちに悲惨な姿を3か月も見せたんだよ。ホントだったらあの人に責任を持たねば成らないんだ。女衒の恐ろしさを知ったので、我慢して娘たちに吉原のホントを教えるしか無かったのさ。四十八手じゃ無いけど、僕の知ってるやり方を全部使ったんだよ。カニばさみで子宮を責め捲った事も有ったのさ。其れでも女衒に掴まったらって怖さで耐えたんだよ。其れもチャンと知った上で皆んなの此れからを決めなくては成らないのさ。」

   全部なんて酷すぎて話せなかったんだ。


   「 あーでもするより無かったんだよ。伊勢湾台風で全部チャラに成ったと思うでしょう。まだ吉原遊郭は営業をしてたんだよ。皆んな知ってたんだ。逃げた娘たちに換わって誰かが犠牲に成ったのをね。其れをお互いに口に出さないで過ごして来た根津中と十文字を知って遣って欲しいのさ。楠さんの相場は3000円だったのさ。だから安全な売春での10000円は有り難いと言ってたよ。出来るだけのお金でお礼はしたけど、其れで済む問題では無いんだよ。僕を煙ったいのは娘たちよりも楠さんなんだ。だから何が有ったのかは伏せて、あの人の事も考えて欲しいのさ。娘たちの先行きと並べてね。」


   「 そうだったのね。判ら無い物なのね。マリーはまだ甘かったわ。てっきり娘たちの役に立つのならってばかり考えてたのよ。皆んなおくびにも出さないから、其んな伏線が有ったとは知らなかったのよ。」

   「 あのね、ナマを言う様だが世の中すべて似た様な事情が有るのだよ。だからって僕に出来る事はお金を作るだけなんだ。僕が居ると拙い人間関係も有るのだよ。マリーが居て呉れるから事無きに済んでるのさ。此う考え様よ。半分ずつ持つって。すると重く考えなくて済むでしょう。皆んな似た様な物だとすると、楠さんも娘たちもそれ程グチグチは思って居ないとしちゃうのさ。僕が言う   

        出たとこ勝負や、変化に着いて行く

        変わり身の早さにして仕舞えば

悩んだり落ち込んだりはし無いで生きて行けるでしょう。」

   なんて、判った様な言い方で誤魔化したのさ。