「 カサ・パトリョに行きましょう。」
「 観光は嫌いなんだろう。ムリし無くても好いのだぞ。」
「 あら、観光はいやだなんて申しませんのよ。ポルト・ベルは麻薬の匂いがするから引き返したのよ。バルセロナに居るのでしたら観光を外しては住めないでしょう。」
「 そうか、嬉しい限りにして置くぞ。感謝を言うのは照れ臭いだろう。もう俺の物なんだから
釣った魚に餌を遣るほどのドジでは
無いからな
そうか、カサ・パトリヨに住む気に成って呉れたか。」
「 何を仰いますか。地獄の果てまで―――ご免なさい、間違えちゃった。毎晩天国に昇り詰めるのもご一緒なんですものね。でもレイ・ファン・カルロスはこのままにして置きたいのよ。岩崎商事と手をお切りに成りたいのでしたら、珠樹が支局に乗り込んでも好いのよ。あら、貰える物でしたらカルロスさん位は借りて置いても好いのよ。」
「 おいおい、其の気でレイ・ファン・カルロスから引っ越そうと言うのじゃ無いのだぞ。あそこはスペイン支局にとっては将来の繋ぎに成るのだから、投資を続けても好いのだぞ。」
「 其れがいけませんのよ。もう岩崎のご隠居では無いのですのよ。
かく申す、芸者珠樹の連れ合いなん
ですから
年が明けたら双子の父親に成って頂きますのよ。男の子でしたら珠樹がおしめを取り換えたいのよ。可愛いおチンチンを指で弾きたいのですもの。そうね、幾つまで出来るか挑戦しても好いでしょう。女の子でしたら貴男がお風呂に入れるのよ。あら、幼稚園の係り員でしたら目を瞑ってて挙げるわ。娘が幾つまで嫌がらないのか、珠樹と競争しましょう。」
呆れたってお顔でしたのよ。
「 ホントに其んな事を考えてるのか。」
「 珠樹がウソを申し上げた事が有ったかしら。一つや二つは無いとは申しませんのよ。ホントに赤ちゃんが欲しいんですもの。此処が毎日大きく成って来るでしょう。そしたらモンジュイックの森で、貴男に赤ちゃんが暴れて騒ぐのを聞かせて挙げたいのよ。ねえ、お医者さんに成ってよ。耳を当てて赤ちゃんの泣き声を聞いて欲しいのよ。あら、あなたの赤ちゃんなんですから、何方が通りかかってもチャンと耳を此処に充てて聞いて欲しいのよ。」
「 参ったな。今から恥ずかしいのを計画してるのか。俺は絶対に遣らないからな。」
「 バカねえ、お父さんだったら皆さん其うしてるのよ。珠樹の想像なんですけど、夢を見たって好いでしょう。来年の初夢なんですから、今夜から練習に入りましょう。そうよ、此処に耳を付けて珠樹が欲しいって言うのを聞いて貰いたいのよ。其の為でしたらカサ・パトリョのお部屋を借りても好いのよ。」
モンジュイックの会話も少しずつ現実味を帯びて来ましたのよ。どうしても彼を落として見たいんですもの。
「 ねえ、双子でしたらこっちの工場と、こっちの第二工場から出て来たのが此処らへんで合体するのでしょう。ほら、貴男のおスペが走って来て珠樹の卵に飛び込むのでしょう。珠樹には判るのよ。ですから貴男も感じて欲しいのよ。」
「 冗談では無いぞ。高校生の様な言い方をするな。」
「 あら、貴男って何時まで東大に居るのかしら。もう其んな時は通り過ぎたのよ。珠樹の共立に併せてすずらん通りで誘惑して欲しいのよ。三省堂書店の裏のカレーハウスが溜まり場だったのよ。ねえ、フラッと入って来て珠樹にバラの花を捧げて欲しいのよ。一度やって見たかったの。カサ・パトリョの一階にレストランが有るのでしょう。珠樹が先に入って窓際にお席を取るから、後から来て欲しいのよ。真っ赤なバラを一輪だけにして下さいな。其れ位の夢を見たって――――」
夢では無かったのですもの。彼ったらバラの花をクシャクシャにして泣いちゃったんですのよ。珠樹も連れ込まれて――――お終い、大人の彼っておバカさんなんですのよ。