「 ねえ、8年は無駄では無かったって言って下さいな。」

  「 其んなの言える筈が無いだろう。1日をシッカリ生きるのって何とも不思議な気持ちだったな。毎日が繋がって居たのだ。何がって決まってるだろう。お前が一緒に寝て呉れた昨日が続けば満足だったのさ。笑うなよ。やっと話せる様に成ったのさ。」

   「 そうなのよ。お迎えに来て呉れるでしょう。此んなハスッパな女なのに今夜も湯たんぽでお背中を温めるのにひと夜毎に心臓が落ち着いて来ましたのよ。柳橋で有った事をクドクドお話してる内にお休みに成っちゃうでしょう。少しずつ湯たんぽに子守唄が入って来たのですもの。一日毎に落ち着いて来た高輪でしたのよ。」


  「 そうだったな。死んだ家内が連れて来た召使いどもの冷めた眼差しがお前にも向けられるので、怒りのぶつけ様が無くて皆んな追い出したろう。残ったのは二人の執事とビュイックの運転手だけだったな。帝国ホテルの賄が来て飯の支度をして呉れるだろう。一人で食う昼飯で思う事は、女どもに囲まれて柳橋の懐石料理を食ってるお前の姿だけなんだ。辛かったな。

       此のまま柳橋に居着いて終うのでは

何が何でも高輪に連れて来て、の毎日だったのさ。」

   「 珠樹だって狂いそうでしたのよ。

       来て呉れないのじゃ無いか、ゾンザイナ  

       言葉がいけないのかしら。態度が悪いの

       なら言って呉れゝば好いのに

ですからベッドに飛び込むと、お風呂が先って仰るでしょう。お背中を流すのに何日掛かりましたでしょうか。死ぬ想いで前に回りましたのよ。もう止められないでしょう。叩かれてもっておチンチンにシャボンを降り掛けたんでしたのね。忘れもしませんわ。

       アレが珠樹の初夜でしたのよ。珠樹の手 

       の中で硬く成って行くのって

何だったのでしょう。」


   「 そうだったな。覚えて居るぞ。やっと高輪も落ち着いて来た2ヵ月後だったな。柳橋の夕飯は止めて、俺の部屋で二人の執事と運転手5人で飯を食う様に成ったのさ。話題と言ったらお前が柳橋を全部話すのに、時には笑いが出た夜が始まったのさ。柳橋では縮こまってた娘が高輪に戻ると女王様だったな。其れが笑える様に成ったのが始まりだったのさ。」

   「 ヘンでしたのよ。柳橋では大人しくしなければでしたのよ。高輪に戻るとホッとして地が出る思いでしたの。

        気取らなくても追い出されない

が、珠樹の持って居る事ったら何も無いんですもの。柳橋で有った事しか口から出なかったのよ。お母さんお抱えの10人のお姉さん方のエゲツ無い下の話ったら、お殿様が―――って貴男の事なのよ。ホントに其う感じてたんですもの。

        役に立たない大チンチの化け物

に、試したく成ったのですもの。」


  「 いや、嬉しかったな。召使いでは無いと思ったんだ。でも昨夜も湯たんぽだっただろう。先が無いとしか思って居なかった俺には天国だったのさ。

        明日も同じで有って呉れゝば

が、ベッドに滑り込んで来て呉れたので、ホッとして眠って仕舞ったんだ。」

   そうでしたのよ。何も考えませんでしたのよ。幸せも何も、今日一日が終わったのですから、明日も同じで有って呉れればでしたのよ。想えばロンダに来るまでは其の続きでしたのね。