「 パルホテルで連泊ってのはドウかな。」
もう判りますのよ。珠樹の疲れを旧市街のローマ風呂で解ぐそおうって気配りなんですのよ。やっとツーカーに近付きましたのよ。怖い想いも有りますのね。
突然一人に成ったら
なんですのよ。
母との時には、此の儘では収まらない
怯えから逃げたい思いも有りましたのよ
今の幸せが崩れたらは、何時でも頭に有るのですもの。
「 忘れろと言いたいのだが、其うも行かないのが世の中って物なんだな。気にするな。お前が言って呉れた
30年先を目指そうでは無いか
夢では無いぞ。有りの侭の今日が明日に繋がれば好いのさ。」
フット気が付いたんですのよ。彼の想いは珠樹の何万倍ものキャパシティーで組み立てられて居るのですもの。其の想いを珠樹に見せまいと為さって居るのを感じましたのよ。
そうなのね。此れが夫婦なんでしょうね
珠樹って何なんでしょう。彼の何だって
思った時が有ったでしょうか
何時でも珠樹中心で
珠樹有っての彼のお命だって
思い上がって居たのに気が付きましたのよ。
これ程までに大事にされて居るのに、何て
勝っ手な独りよがりだったのでしょう。
彼の8年を想い遣った事が有ったで
しょうか
其うなんですのね。母の思い遣りは
辛く苦しい胸の内を娘には見せないで
無言のうちに旅立つ人生を選んだ
のに、気が付かないバカな娘でしたのよ。今また弥太郎さんは、同じ道を選ぼうとして居るのですのよ。
バカと言うよりは、母の17年の苦しみを今やっと判る様に成りましたのよ。
30年の目標が彼の今日の救いに成る
なんて、珠樹の独り善がりなのに気が付きましたの。
25にも成って、母が娘の為に選んだ生き方に気が付くなんて、彼はとっくに判って居て同じ死に方を仕様としてるのですのよ。申し訳で済む問題では有りませんのね。忘れられる物では無いとしたら、珠樹はドウすれば好いのでしょう。
そうなんですのね。彼が望んで居る物は、今日一日の伴侶なんですのよ。其れが明日にも明後日にも繋がるのに手を貸すのが珠樹のツトメなんですのね。
母は心中と言う形で決着を付けましたけど、彼も珠樹も其れを望んでは居ませんのよ。
彼の想いはお先にが揺るぎない現実と
覚悟して居ますのね。珠樹には後の弔い
を任せるのでは無いのですのよ。彼は
今日の珠樹の幸せだけを思って居ると
したら
なんとお応えしたら好いのでしょう。そうなんですのね。遅ればせながら新妻としてお仕え出来る幸せを彼にでは無く
二人で共に分かち合えれば今日が
満足に生きて行けるのでは
しか、考えられませんでしたの。
「 そうなのよ。ロンダのローマ風呂で珠樹は生き返りましたのよ。岩崎弥太郎の妻としてね。あの時はまだ
ヤー様の彼女でしたのよ。やっと妻に
開き直る気に成りましたの
開き直るって言葉は使いたくは無いのですが、其れしか無いのですのよ。押しかけ女房ですが、今後とも宜しく認め為さい。」
初めてでしたのよ。ヤー様の涙が零れましたの。二人で泣いて抱き合いましたのよ。暗く成り掛けたバルセロナの東駅でね。