「 何もかもが不思議だったのさ。カードは嫌だと言うから財布を預けても部屋に置きっ放なしだろう。
お小遣いは運転手さんに貰うから
と言われれば、俺の立場が無く成っちゃうだろう。」
「 ご免なさい。判ってはいるけど、運転手さんのお立場も有りますのよ。お嬢さんと同じにお誕生日を作って下さって、お祝いして下さるでしょう。貴男とは別にファンが居ても好いのでしょう。」
「 おいおい、其んな事まで遣ってたのか。ダブルの誕生パーティーだとは知らなかったんだ。」
「 おナマヲ言わせて頂きますと運転手さん、お嬢様との間に隙間が出来掛けて居たのでしたの。珠樹の誕生日会と言うよりも、運転手さんの誕生日会を応援する心算でしたのよ。同じ日に帝国ホテルで貴男の名前でお誕生日会を開きましたの。初めてお嬢様にお目に掛かりましたのよ。気位のお高いいーえ、其うお見受けしただけでしたの。慣れ合うのなんてお手の物なんですもの。其の日の内に柳橋にお連れしましたのよ。
聖心の先輩って触れ込みでね
運転手さんには珠樹の我儘を伝えて有りましたの。ご存じ無かった様でしたのね。
珠樹が芸者で囲われて居るとはね。
5歳離れて居ましたのに、お姉さん
方が裸一貫でヤー様に拾われたのを
全部バラシて仕舞ったんですもの。驚くも何も、其の
裸からじゃれ合いましたの。もう珠樹の手の内に取り込みましたでしょう。運転免許をお取りに成って、チョクチョクお父上の代役を務めて下さいましたのよ。」
「 其んな事だとは薄々知ってたのさ。あのビュイックは5台目なんだ。元々奴は馬車の馭者なんだ。ビュイックの前のT型フォードから運転手に換わったのさ。いや、馬を扱うのと同じだから事故も派手に遣るのが癖に成ったのだな。
馬が好きなのを車に乗り換えさせただ
ろう。事故を言ったら馬車に戻って仕舞
うから、細かい事は言うなと言って置い
たのさ
そうか、娘にな。男だたったら人が近づいて来るのは人格と言う処なんだ。お前に限っては特性なんだな。事に依るとオオカミにも好かれるかも知れないな。」
其れは無いでしょうってですけど、其んなアホに近い性格も有る見たいなのね。
キのままって言うのかしら。生まれてか
ら育って居ない気がしますのよ。人懐っ
こいのは電車で獲物の気を引くのに
自然に身に付いた見たいなのね
「 貴男は別よ。怖くて近寄りがたいお人に見えたんですもの。私って幸せ者なのね。周りの人たち全部に援けられて来た見たいなのね。運転手さんもお嬢様からお近づきに成ったでしょう。聖心の5年先輩でしたので、怖い事は全部教えて頂きましたのよ。お父上の運転では、後ろのシートで聖心の嫌な事を爆発しても受け止めて下さったでしょう。アレがどれだけ救いに成ったのかは、数え切れない程有りましたのよ。」
「 そうだったな。全部と言って好いほどお前の力なんだ。冷え切って居た高輪が蘇っただろう。厨房も帝国ホテルが引っ越してきた感じに成ったから、其れまで出なかったおでんも鍋物も出る様に成っただろう。お前に釣られて厨房の賄飯で酒を飲むのが何とも言えない話し合いの場に成ったのだな。自然にお前の好みに合す様になって来たのだ。百年以上もの高輪を変えたのだからな。」
「 全部お殿様のお力なんですのよ。
違うってば、煽てたら珠樹止まらなく
成るのですもの。アレは有れで、全部
貴男が次の時代にお合わせに成った
のですのよ
もう、高輪に帰らなくても弥太郎さんは生きてますでしょう。変わらないのは森の中のお池だけなんでしょう。」
「 おう、其れも切り崩すと報せは来て居るのさ。
帰って来るなと言う報せなんだ。
好いさ、此のバルセロナに骨を埋め
様では無いか
何だ其の顔は、偶には思い出す事も有るさ。高輪かも知れないし、岩崎も思い出としてはな。良く考えたら高輪が有って柳橋に居たからこそお前に会えたのさ。
ドウだ、先の事なんか判りはし無い
さ。高輪の池の代わりに此のモンジュ
イックの池を見つけたんだ
ビュイックの代わりにアルファ・ロメオで奴の本社のピークにドライブってのはドウかな。」
に成りましたのよ。お目当てはテル川の山奥の温泉宿ノリアに決まってるのですのよ。子宝の温泉って聴いてますからね。