「 日本に居たく無いのが本音でしたのよ。」

言ってはいけない事なんですのね。乞食同然の珠樹を拾って下さってからの6年は、珠樹の我儘だけが目立つ時でしたのよ。日本一幸せな暮らしを下さったご恩も忘れて

       日本に居たくないなんて

口が裂けても言ってはいけない言葉でしたのね。

   「 そうか、俺も其の気で居たのさ。正直に言うと、何もかも放り出してお前と高跳びしたかったのさ。殆んど1年以上は高跳びの作戦を練って居たんだ。お前に会ってからの3年近くは、岩崎を清算するので苦慮してたのさ。思い切って芸者珠樹の祝言を挙げたろう。お前も俺も本心で無いのは判って居たのさ。だけど切っ掛けを作るのには其れしか無いと思って居たのさ。だから

       お前がトレヴィの泉を言い出して呉れた

       のには

心からホッとしたのさ。」


   「 ご免なさい。私って自分の事しか考えて居なかったのよ。貴男が即座にトレヴィに賛成して下さったので、暫く気が抜けてぼんやりして居ましたのよ。そうでしたのね。其れでシチリヤに飛ぶ計画をお持ちでしたのね。」

   「 そうなんだ。逆に外国疲れと言うのかな。まさかアフリカや南米は考慮の他だったのさ。シチリヤの狙いはタオルミーナの居住権に有ったのさ。ヨーロッパで前の戦争に巻き込まれなかった国と言ったらスペインだけなのさ。ポルトガルも北のノルエー・スエーデンも何らかの影響は受けて居たのだ。幸か不幸かスペインはフランコの独裁体制に巻き込まれて居ただろう。今、宿にしているレイ・ファン・カルロスも、グエル公やコロンブスを援助したマルティ王とアラゴン王に代表される封建社会がスペインを戦争の影響から独立した国を守って居たのさ。確かにロンダの落ち着きも素晴らしいと思ったが、其れ以上にバルセロナを第二の故郷としたいと思ったのさ。」


   「 そうでしたのね。何も知らないで勝っ手ばかりでしたのね。」

   「 いや、ホントを言うと其れで救われて居たのさ。何とかムリを押してもお前を傍に置きたいと焦って居たのが自然に独立した人間同士を見る気に成ったのさ。其れまでは

       何とか理解し会わ無ければと焦って居た

       のさ。理解の難しさに焦るのでは無くて

体と言葉で話し合うのが見えて来たのだ。其れをお前が言い出して呉れたろう。今までに無い気楽を取り戻したのさ。有り難かったな。ベッドで寝て居ても

       何れは自然に成るのだからが

焦らず待つ気に成ったのさ。ハスラー・ローマの失敗をお前が取り戻して呉れただろう。アレでタオルミーナの居住権とスペインに骨を埋める覚悟が出来たのさ。いや、感謝はして居るぞ。隠さなくてもお前の気配りは知って居るぞ。其れほどドンナ男では無い心算だ。若さを取り戻せたのには感謝が尽きないな。俺の心配よりもお前が一人に成ってからを何とかしなくては成らないのだな。」

    言って好いのか迷いましたのよ。今日は辞めて置きますが、時を見て申し上げる心算でしたのよ。

何をってご想像してご覧遊ばせ。