「 袋田の滝で判ったと思うけど、今の時期だと北に向かっては山道は雪だと思うのさ、此のヒルマンの細いタイヤではチェーンを使っても凍った道では無理なんだ。春に成って十文字を卒業しても急に根津を離れるってのは拙いんだよ。皆んなのヒルマンはそれぞれ一人で行動するのに使うとして、暫くはスクールバスを使わないかい。」

    考え込んじゃったのさ。

    「 話したのは一先ず海岸線に向かおうって事なのさ。夜までに泊まる処を決めるとして、お昼はお腹に溜まる物を探そうよ。」

    「 そうね、」

と、山田の口癖が出たのさ。半分上の空なんだ。


    「 何を迷ってるのだい。まだ青森が引っ掛かってるのかな。」

    「 そうよ、私じゃ無いのよ。皆んな伊勢湾台風で昔は全部流すのに決めたのよ。タイミングとしては売春から抜ける時期に来てたのね。一人だけもやもやしてた人が居るのよ。」

    「 判った、楠さんで引っ掛かってるのだね。此れって君たちが知らない物があの人を悩ませてるのさ。先ずお腹を作ってからの話なんだ。」

    で、荒れ地の中の道とも言えない草むらをゆっくり走ったのさ。下手するとヒルマンのお腹をコスリソウナ荒れ地だったね。

    「 戦争が残した残骸なのさ。仕事が無かったのは青森だけでは無いのだね。東京に皆んな集まったのは東北に仕事が無かったからなのさ。此の辺は陸軍か空軍が使ってたと思うのさ。進駐軍も使わなかったのはドウ仕様も無い土地なんだね。捕まってろよ。地雷が埋まってるかも」

    「 脅かさないでよ。此んな処に地雷なんか埋めても仕方が無いでしょう。」

   仕舞ったと思っても東京に居ては想像が着かない荒れ地だったのさ。元は道だってはずの草地を歩くくらいのスピードで走り抜けたのさ。


   「 ねっ、森とも言えない痩せた木が生えてるでしょう。木が元の道を教えてるのさ。何とか抜ければ人が住んでる処が有る筈なのさ。ともかく捕まってろよ。」

   僕だって初めてだった。荒川の土手をトライアンフで走るのより難行だった。何時間走っただろう。やっと民家が見えて来てホッとしたのさ。

    「 道に出たよ、人影も無いし邪魔も入らないから少し飛ばすよ。」

    確かに田舎其の物だったよ。道と言っても電柱も立って無いし、関東平野では経験出来ない田舎だったね。

    「 袋田の滝が名所に成らないのがこれで判ったでしょう。今海に向かって走ってるから、お店が出て来ると思うよ。後2・30分の辛抱だよ。ほら、ボチボチ家が見えて来たでしょう。道も穴が開いて無いからスピードを上げるよ。」

    我武者羅に海に近付けばって走って来たのさ。汐の臭いがして来たのでホッとした瞬間だった。