シモンズのクイーンズで寝て居た筈の山田が居なかった。

        帰ったのかな

時計を見るとお昼を廻って居た。外で話し声が聞こえる。僕のトライアンフを男と話しながら山田が洗って居たんだ。

    「 帰ったのじゃ無かったのか。」

    「 お早うさん、テーブルにお支度が出来てるでしょう。冷蔵庫に何も無かったから、玉ねぎのおみおつけを作って置いたのよ。ご飯はお鍋で炊いといたから、まだ冷めて無い筈よ。」

    お鍋に触って見たら熱いので飛び上がったんだ。確かにお味噌汁の匂いがするし、お茶碗もお椀も二人分揃えて伏せて有ったんだ。


   「 遣るもんだね、お昼を頂こうよ。其の人は誰れなんだ。見掛けない男だから新聞の勧誘だったら―――」

   「 あら、神明町の工務店の職人さんよ。根津の植木の手入れで来て下さって居たから、此処の柵周りをチャンとする様にお願いして置いたのよ。周りは荒れ地だからって放って置いたら拙いでしょう。」

    トライアンフの手入れをソコソコにして、手を洗いながらお味噌汁に火を入れて居たんだ。割烹着の後ろ姿が17歳とは見えない艶かしさだった。

    「 ムリし無くても好いんだよ。お産と同じだからまだ寝て居なかったら。」

    笑われたんだ。将に妖艶な微笑みでね。


   「 うふっ、少しは判ったのよ。お着物はチャンと片付けて有るのに、お襦袢ったら衣裳架けに放り上げて有るでしょう。あの方柳橋のお母さんの様ね。急いでマリーをお迎えに行ったにしては、激しかった様なのね。お歳はマリーとお似合いには見えたけど、かなり荒れてたみたいなのね。」

   「 拙かったな。全部悟られてる見たいだな。」

   「 全部なんて言えませんのよ。お台所を見ただけですもの。柳橋を偵察して女将さんだってのは知ってたのよ。急にお若く成ったから、功の魔法がきつかったのは判るのよ。あら、ドレッサーなんか見て居ませんわ。全部用意して来たのですもの。」

   「 それにしても寝て居なければ後に響くよ。」

   「 何を仰いますのよ。其の手の常識は、育ち盛りの10人で仕入れて居ますのよ。功の知恵とは相手が違いますのよ。耳年増のアバズレだけとは限らないのですのよ。柳橋の常識なんかとっくに承知の介なんですのよ。あら、お食事したら私のヒルマンでお出かけしましょう。居ない方が職人さんもお仕事が捗るでしょう。」

    殆ど見抜かれてたのさ。


    夕べのアレだって、テストの内だったのかも知れないのさ。そりゃ何千人も知ってるさ。だけどマリーの他は松坂屋で仕込んだ年増ばかりなんだ。

        一度は芝浦港で夢中で抱いた山田と

        改まってお手合わせをしたい

とは思ってたよ。思い出そうとしても、殆ど夢の中なんだ。

        ガッチリ咥えられて疲れて寝てしまった

までは覚えてたよ。不覚とも言えるんだが、

        確かにベッドから転げ落ちて、血まみれ

        の格闘だったのは

覚えてるよ。其う言えばトイレに駆け込んで戸も閉めずにホッとしたっけ。あれ程の出血の汚れにも気が着かなかったんだ。夢の中で暖かいガーゼのタオルで拭かれたような気がするんだ。

        2年で此うも変わって居た

とは、何とも拙いって無かったね。