「 一度はチャンと言おうと思ってたんだ。」

岩崎弥太郎さんにお目に掛かったら、

       岩崎って既得権に胡坐を搔いてる

のが、鼻に着いたんだ。高輪のご大そうなお屋敷は、将に岩崎の既得権の象徴だったのさ。

       其れを背中に背負って鼻を突き出してる

       珠樹が嫌いに成り掛かったのさ

ゲスの僻みにしとくけど、僕の嫌いな人種に思えたんだ。珠樹の場合は、将に人間の弱さを現わしてると思ったんだ。

       僕も強大な権利の中に居たら、自分を

       曲げずに生きて行ける自信を

失くしそうに思えたのさ。


    「 今の仕事なんだけど、8歳の頃からサラブレットと一緒に多摩川で泳いでたのが続いてるのさ。其の他には何も知らないんだ。かっぱらったラジオで、進駐軍放送を聞いてたのでアメリカンは日本語と同じ位馴染んでたのさ。其れがマリーとくっ付く切っ掛けに成ったんだ。本を読まされて辞書を引くのを覚えたんで、何とか字は覚えたよ。後にも先にも先生って言えるのはマリーだけなんだ。」

    「 判るわって言いたいけど、其んなのドウでも好いのよ。」

    「 違うんだ。マリーの事は追々知って貰えば好いのさ。弥太郎さんに会って鼻持ち成らないのに失望したけど、お金持ちを相手に商売し無ければ巧く行かないのを知ったのさ。思いがけず大金が手に入ったでしょう。此の侭ではお金持ちカブレに成っちゃうと感じたのさ。何しろ此れまでの儲けとは金額が桁違いなんだ。元々お金の値打ちを知らない男だから、使うのも正しいとは言えない浪費が多かったのさ。

       娘たちの売春を1万円と決めたのも

根拠も何も無い出まかせだったのさ。見てたら其れを彼女たちは貯金に回してたんだ。辞めた時は全員250万円の貯金を持ってたのさ。だから決めたんだ。

       稼ぎは全部彼女たちに挙げ様

ってね。好いんだよ、僕の浪費をチャンと知って、マリーと君さんで決めて呉れれば好いんだ。」


    「 そうだったのね。大学卒業のお祝いにしては桁が違うから含みが有ると思ってたのよ。弥太郎さんのお大尽気取りに染まりたく無いって事なのね。功らしいと言って上げたいけど、お金って三途の川を渡るのにも必要なのよ。厚生係りならって思ってたけど、段々功の金庫番に染まりそうなのよ。」

    そう成るに決まってるでしょう。僕は主で威張ってる心算だけど、家に帰れば女将さんに締め上げられるに決まってるでしょう。

        其れが家庭なのかな

って、均されて来た今日この頃だったのさ。岩崎って