「 僕は車に頼り過ぎて居たのかな。こうして君さんと手を取って沢歩きするのって、忘れて居た気がするのさ。」
「 嬉しいわ、小母さんを忘れさせて呉れるのですもの。」
お世辞抜きに嬉しそうな顔をしたのさ。
「 小母さん序でに云わせて貰うわ。車ってお金と同じに要るものなのよ。特に足が弱ったお人には必需品なのよ。お金も使い方が問題なのと同じで、車も手足だと思った方が好いのよ。同じ様に言わせて貰うと、女性たちにお家を挙げたのは、ご自分たちのお部屋が出来たのと同じなのよ。12歳で女中奉公に上がってから、今まで自分の部屋って無かったのよ。
和ダンスが欲しいって言ったのは
自分の箪笥が欲しいって事だったのよ。柳橋には大きな和ダンスを三つ並べて有るのよ。私のお着物も5人衆のよそ行きも一緒に終う様にしてたのよ。あの人たちの仕舞い方って雑でしょう。其れを言ったって角が立つだけで改めようとはし無いのね。居なく成ったら陰干しして、畳み直して仕舞うのが私の日課だったのよ。お家を貰って皆様お忙しいとは思いますが、見に行くのは嫌がらせと取られ兼ねないでしょう。お車の話が出たから言いますけど、お金と同じ必需品だと考えると、ドウ乗ろうと口出し無用なのよ。事故はするわ、手入れはしませんに成るに決まってるでしょう。其れを口出ししても膨れるだけに成るのよ。言いたい事は判るでしょう。
ヒルマンは足としては必要なんですか
ら、其れを悟って事故で痛い目に
会ってからお願いって言って来るのに
決まってるのよ。家庭と同じだと思ったら、家も車も必需品だと気が着くまで放って置くしか無いのよ。」
「 其んなの云われなくても判ってるよ。家は兎も角として事故で大けがをしたら拙いでしょう。最低のルール位は教え置かないと、無責任のそしりを受けるのだよ。」
笑われたんだ。
「 坊やネンネなのね。私とマリーのセックスが欲しいのでしょう。其れも三途の川を忘れて20年、30年の先まで遣りたいのでしょう。まだ判って居ないのね。セックスって絶対の必需品では無いのよ。余暇を楽しむって言うか、暮らしに潤いを作る余裕を持たせるリラックス品なのよ。今日・明日無くても死にはしませんのよ。其処へ行くとお金は毎日の必需品なのよ。同じに思えば功の必需品って私とマリーのセックスなんでしょう。其れが絶対だとしたら、悪い言い方でも、10人が欠けてもドウって事は無いでしょう。
入れ揚げが過ぎるんじゃ無いかしら
ってのは其の事なのよ。ヒルマンを手に入れたら、これ程便利な乗り物は無いのよ。だったらヒルマンは必需品でお散歩はストレス解消の余暇なのよ。おや、飢えてるんならお相手して上げても好いのよ。此れって最高に楽しいけど、無くても困るって物とは違いますでしょう。功は突撃一本だけど、余暇だと思えばお花を取り替える心算に成ってマリーと私を取り替えれば好いのよ。」
何の含みが有るのかも考える余裕は無かったんだ。だって日曜の夜は酔い過ぎて不覚を取ったでしょう。環翠楼では部屋の作りに圧倒されてつい、大浴場で小母さん達の連れ合いの旦那衆に併せちゃったでしょう。やっと見つけた寂れた宿でって思ってるのに、賄の麦ご飯に気を取られて何時もの襲い掛かるのを忘れて居たでしょう。
「 そうか、遣るのって余暇なんだね。」
「 あら、功ちゃんにはって云ったのよ。私には43年待った要求が有るのですからね。好いのよ、私の必需品なんですから今日は我慢するのを教えて挙げる。」
って、馬乗りに成ってお股に挟まれたんだ。ドウ成ったかって、其処まで云わせなくても好いでしょう。小母さんのお股って――――辞めようね、一発目はって――――やっぱり言えないよ。