「 ドウだ、今日もエル・コルティングレスに寄ってサンドイッチを仕入れようじゃ無いか。」
「 其うしたいのですけど、一度シチリヤに戻ってタオルミーナのお家で落ち着きたいのですの。」
ヤー様はジッと珠樹をお見つめに成りましたのよ。
「 そうか、ワシの面倒を見様とするのは嬉しいのだが、此処を動く気は無いのだ。そろそろ言って置かねばとは思って居たが、日本に戻れば岩崎家の相続に巻き込まれるのが見えて居るのだ。此処で終われば全部スペイン支局が手配して呉れるのさ。其れがベストな選択だと決めたのだ。」
思い掛けないお言葉でしたのよ。
「 8年お前を見て来て変わって来て居るのに思い至ったのだ。一度はと思って居たが、そろそろ真実を告げる時が来た様だな。」
お話って想像を超えて居ましたのよ。
「 8年前に成るな。千住警察の死体置き場でお前の母上の両手首に巻かれた包帯で想いは決まったのさ。此れは芸者珠樹を請けて呉れる時に話したな。あの包帯は検視官が警察に暗示した死の詳細だったのさ。言わずに済むのならと思ってはいたが、ワシの寿命も其れほど遠くは無いと感じたので話して置くのさ。」
モンジュイックの噴水の傍のベンチで、ジッと珠樹をお見つめに成って話して下さいましたのよ。
「 手首の傷が何時の物かは問題では無かったのさ。検視官が包帯で隠したのは自殺では無いとの検案書を裏づける包帯だったのさ。執事が
検案書を取りましょうか
に、
其の必要は無い。お引き取りして
丁重にお見送りする様に
申し付けたな。巻き込まれなかったお前が気が着かないのがせめてものワシの心だったのさ。千住警察は全て合意の上の自殺で処理したのだ。原因は勿論の事、お前が其れを掘り起こそうとし無いのなら、此のままスペインに埋めようと思って居たのさ。せめてもの頼みなんだ。シチリヤは忘れて欲しいのさ。此処で平穏に過ごせるのなら、日本に戻して貰いたくないのだ。全てはマドリッドに託す心算なんだ。お前には残す物はチャンと手配して置く心算なんだ。岩崎珠樹は忘れてワシを見送って欲しいのだ。」
何て事だったのでしょう。お返事なんか出来ませんでしたのよ。ジッと噴水を見詰めて思い込んで居ましたの。日が沈むのも忘れてでしたの。