「 柳橋を訪ねたのは5人の元芸者のお姉さんたちに驚いたからなのさ。皆さんもう、小母さんのお歳でしょう。」
「 そうなのよ。お二人は旦那様をお見送りしたからフリーなんですが、40を超してる方たちなのよ。普通置屋に籍を置くのはお一人が限界なんですが、弥太郎さんの援助が有ったから皆様のお名を残して置けたのよ。前から何とかし無ければとは思って居ましたのに、自分の事にかまけてナオザリニ成って来たのよ。」
「 薄々は其んな事だとは思って居たのさ。珠樹がお床の作法を教わったって言ってたから、そっちのプロだとは思って居たのさ。10人に家庭を教えるったって男の僕にはドウ仕様も無いでしょう。お願いして見て余りの事に驚いたんだ。確かに女性の作法は完璧だけど、主婦業のイロハも知らないのさ。イヤ、知ろうとし無いんだ。茗荷谷に来て貰って驚いたんだが、娘達よりも投げ遣りなんだよ。根津の暮らしって10人で牽制し合うから最低の生活リズムは作って来て居たのさ。見てたら
箸の上げ下ろしはチャンとしてるん
だけど、其れってよそ行きの顔でしょう
お風呂に入るんだって僕の前で平気でパンティーを脱ぎ散らかすんだ。流石に娘たちも眉を潜めるんだよ。此れじゃあって君を訪ねたのさ。」
「 そうだったのね。15で旦那持ちに成ったけど、まだ芸妓の身分だったのよ。ですから女将さんの家で毎晩稼ぎに忙しかったのよ。22に成ってもまだ芸者のお披露目は出来なかったの。其処へ東大の学生の弥太郎さんが遊びに来たでしょう。見初められてお店を引き継ぐことに成ったけど、ハッキリ言うと体に引け目が有ったから、弥太郎さんのお店での面倒を見るので精一杯だったのよ。」
「 ご免よ、イヤな事を思い出させちゃったね。」
「 好いのよ、隠したって仕方が無い事何ですもの。今と成っては感謝して居ますのよ。其れが有ったので一通りの主婦業は熟して来たでしょう。芸者とは違う暮らしとの掛け持ちだったから、一日中走りっ放なしでしょう。健康には結び付いたけど、籍を置く事に成った芸者衆の事は構う暇も無かったのよ。」
「 其うだったのだね。お姉さん方も呼んだからには何とかし無ければ成らないでしょう。今思ってるのは10人に取っての反面教師に成って貰えばってだけなのさ。お住まいは旦那の持ち家だって聞いてるから、銘々に家を持って家庭を作って行けば、此の先の自立は何とか成るのではって思ってるんだ。」
「 ご免なさい。指導する立場なのは判って居たけど」
「 待ってよ、僕って好い加減な男なんだよ。見て判ったと思うけど、家庭や主婦業を想ったのはマリーと二人で作って来たからなのさ。南部と江戸のチャンポンだから好い加減に造って来たんだ。だからドウしたらってのは皆んなとドッコイゝゝゝなんだ。頼りは君さんだけなのさ。だから下足番が居ると思って動いて貰いたいんだよ。言えるのはお金と時間だけなのさ。娘たちが難問を抱えて戻って来るのは10年、20年先の筈なんだ。其れまで僕とマリーを支えて実家を作って貰わないと、ドウ仕様も無く成るのさ。お願いだよお嬢さんよ。」
「 あら、幾つまで下げたら気が済むのよ、此の女たらしさんよ。」
って、ドウ成ったのかは次回にご期待として