「 珠樹に聞かされて居ました。君さんの躾は日本一だと。」

    笑い転げたのさ。なんとも不思議な人だったね。だって3時間、きっちり受け取って呉れるのだよ。

       知ってる見たいなんだ。狼の遠吠えで

       僕が震えるのをね

だって明治の女性がだよ。鼻声なんか僕の突込みで皆んな併せて来るのだよ。其れの合間に突然遠吠えが入るんだ。知らないって恍けてるけど、お淑やかな柳橋のご婦人が豹変するのだから訳が判らずに突撃に成っちゃうでしょう。

       知ってるのじゃと思うんだけど。

満更のお惚けでは無い見たいなんだ。


    もうお歳なんか忘れて猛攻撃に成っちゃうのさ。終わってギブアップしてる僕を懐紙に包んで抜く時の気持ちって堪らないのさ。だって初体験なんだから。其れから暖かいタオルの攻撃でしょう。明治の人って凄いんだね。添い寝されるからつい手が伸びると、

       終りよ、いけない坊なんだから

って、教えて挙げないよ。此の時ばかりはお母さんに成っちゃうんだ。スルッと抜け出してお結びを持って来て呉れるのさ。エッチから抜け出すお結びなんだ。

    「 珠樹のよ。見覚えが有るでしょう。」

って長襦袢なんだけど、珠樹のじゃ無いのは知ってるよ。

       何時見たんだ

其んなのドウでも好いでしょう。柳橋に訪れたのは夜だったよ。待ってたとは云わないけど、行きつく所にはチャンと行きましたよ。あの時の無垢の長襦袢は置いて来たのだね。なんとも艶めかしい色のお襦袢なんだ。


    「 坊やお好みに併せてるのよ。」

苦労と言うか覚悟を察しなさいって明治流なんだ。少しずつ柳橋から離すなんてシチメンドクサイのは遣りませんよ。僕の得意はセックスとお金儲けだと言ってるでしょう。柳橋は君さんのお城なんだ。僕が知った事では無いのだよ。遣り方は知ってますよ。消防団の団長か町内会のお歴々にお金を積めばいいのだよ。

    「 好いのよ、皆さん私が入院するのをお待ちなのよ。でも好いの。珠樹が後を継ぐのはチャンと回状を廻して有りますから」

    「 其んなの反故にしちゃえよ。珠樹は戻って来ないし、仮に一時帰国しても高輪に籠るに決まってるでしょう。明日町内会の会長を訪ねて僕から暇を言っとけば好いのでしょう。何にも知らないおとこだから、還って都合が好いのさ。会長さんにペコペコしとけば好いんでしょう。マリーが帰って来ると頭を下げるのは嫌いだから、今の内だったら下でに出てお金を積めばお掃除くらいはして呉れるよ。」


    「 何も知らないのね。江戸の仕来たりが今でも生きてるのよ。勝海舟さんが芸者珠樹の札を預けて置いたでしょう。其れだってチャンと回状を廻して有るから何も起きないのよ。柳橋って面倒な花街なのよ。」

    面倒って、付き合い始めたらキリが無いのさ。君さんが後何年頑張れるのか言う訳には行かないけど、昭和が何時まで続くかは判らなくても、此の先50年くらいを見込んで弥太郎さんが作った柳橋基金の上積みをしとけば良いんでしょう。残った4軒の置屋が何とでもして呉れるよ。

    「 隅田川の仕来たりって、花火と向島の桜位なんでしょう。其んなの町内会に任せとけば好いんだよ。」

    「 何も知らないのね。柳橋が神田川を境にして右岸を仕切って居ますからもめ事が起きないのよ。浅草も向島も湯島も神田明神も、柳橋を乗り越えられないから小さく成ってるだけなのよ。たった5軒の柳橋ですけど。」

    云わせとくのさ。28歳の功坊やのおっ母さんとしてね。明るい内は知らん顔を通そうとしてるけど、何しろ茗荷谷の荒れ地に咲いた妙艶なアダ花なんだ。昼間っから手を出そうとすると

    「 コラッ、お仕置きさせたいのね。」

って、柳橋育ちのお仕置きが飛んで来るでしょう。

        ドウって云われても、やんわり真綿で

        首なんだよ。

男の弱みを知り尽くしてるからって、教えて挙げないよーだ。突撃一本の僕の出鼻をヤンワリ殺ぐから夜を待つより無いのだよ。