芸者珠樹が生涯の名前に思える様に成ったのですのよ。昔を捨てるも何も、全部高輪のお屋敷から素直にスタートするのがホントでしたのよ。8年掛かりましたが遅過ぎたとは思いませんのよ。彼のお心を受け止めるのには8年が必要だったのですのね。少しだけは判り掛けましたの。
珠樹を窘めるのに、ご自分のお膝を
お扇子で痛めて居らしたのが
其うでしたのね。芸者珠樹としてヤー様にお仕えするのは、40年のお母様の愛も一緒にしてお仕えするのを教えて居らしたのですのよ。芸者にも愛が有るのをね。珠樹は歳の差を埋めるのにセックスに拘って居ましたのね。
青島で戦死した旦那の子供を6か月で
堕ろさねば成らない芸者の想いを
二度と味わいたく無いので、ヤー様に囲われるのをお嫌いに成った40年でしたのね。其れをドウコウ言える立場では無いのですのよ。
彼の子を温めて生まれた時には女の
幸せを子供と共に育てて行く心算で
有っても、其れが続く母親や両親が多くは無いのは知って居ますのよ。
女の不思議にして置きますけど、6か月はお腹の子供に愛を確めて居らしたのでしょう。今に成って判りますのよ。妊娠を重ねれば、最初思って居たお腹の子供に待って居た愛が薄れるのをですのね。其れって最初の男に持って居た愛が、お骨に成って戻って来たのが薄く成る女のサガをご存じだったのですのね。口に出せない40年を噛み締められるバルセロナでしたのよ。サグラダ・ファミリアの数百人の真っ直ぐなお目の中に、珠樹の卑しい心があざ笑われてるのを見られたのですもの。トレヴィでは拍手で迎えられましたのに、スペインの太陽は其れを許しませんでしたのよ。
半分だけ愛に変わり始めた好き心を
根元から掘り起こされたバルセロナでしたのよ。愛と同時にヤー様の庇護は捨てられませんのよ。ドウシタラって芸者珠樹を続けるしか無いのですのよ。今夜は彼と二人だけの夜ですけど、明日に成ればお母さんの愛もお引き受けし無ければ成りませんでしょう。ヤー様の世界には数千万人ものお人が居るのですもの。其の中の一人としておすがり出来るのは芸者珠樹としてだけなんですのね。甘い覚悟に気が着いたバルセロナでしたのよ。