皆さん家庭を持つって初めてでしょう。置屋も家庭とは云えない暮らしでしたのよ。
ヤアがしんみりと言いだしたのさ。
「 屋根の下で暮らすのが家庭とは言えませんのね。昔から
家を三軒住み替えなければ満足と
言える住まいは作れない
と、云われますのね。満足ってドウ思えば好いのかしら。」
「 うーん、僕は戸田橋の下の小屋で満足してるのさ。男の住まいとしては便利さが求められるのだよ。機能優先って言うのかな、手を伸ばせば冷蔵庫が有って、電話が傍に有れば満足なんだ。蕨署の厚生部をって自分では思って居るから、寮かも知れないし男所帯の合宿所なんだから、潤いなんか外に幾らでも有ると決めてるのさ。」
「 そうね、柳橋のお店も似た様なお家なのね。毎日のお稽古事は検番が使えるでしょう。ヤー様のお食事も着替えもヤル気ならお店で出来ますし、外のお食事に出るのも便利でしょう。チャンとした西洋料理は出来なくても、お寿司も会席の仕出しも取れば好いのですから、住むには不自由はしませんのよ。暮らしを細かく云うと、主婦としてのお仕事と外向きの暮らしを熟せれば良いとして来たのよ。ご飯のお茶碗は主婦の分野ですし、お茶のお湯の呑みはお客様のご用意としてしまって置けば好いのですのね。」
元芸者さんのお姉さん方が頷いたんだ。
「 其う云われれば私たちが暮らして居たのは旦那をお迎えする為の家でしたのね。用意するのはお茶くらいでしょう。お酒は酒屋さんからお摘みを添えて届くでしょう。お休みに成るのでもお触りが有れば其れで息遣いが激しく成って終わりでしょう。お年寄りって汚れる物は何も無いのね。良く此れまで続いて来たと感心するだけなのよ。そうか、主婦業のイロハも知らないで終わりに成る所でしたのよ。此れから主婦業に手を染めるのなんて、めんどくさくて出来ないわ。」
「 うーん、ハッキリ言わせて貰うと皆さんは男の玩具としてのお人形扱いだったのさ。好いから此の茗荷谷で暮らして見様よ。お人形は許さないよ。だって脂が乗り切った方達なんだ。許すも許さないも恋愛がドウ言う物か経験するって所からだったらドウかな。僕の恋愛って知ってるでしょう。此れが姫初めじゃ無いけど、人間としての暮らしの取っつきに仕様よ。」
何を言ってるのか、僕だってシドロモドロだったのさ。茗荷谷には此れまで味わったことが無い年増のフェロモンが溢れ返って居たのさ。ヤアで誤魔化し切れない女将さんの復活が刺激と成って居るから、横座りしたワンピースの裾から覗いて居る――――見るなって云われても――――