「 サンツ駅のツーリストインフォメーションでハネムーンのカップルに見られたのは嬉しかったのよ。だって普段着で手ぶらなんですもの。ドウ見たってお年寄りの観光とは違うのが見えてたでしょう。珠樹はお買い物客と思って居たのに。」
「 そうだったな。ブラッと買い物に来た心算だったのに、ハネムーン扱いには参ったな。お前が新鮮に見えたのだろうな。」
「 違うのよ。ご年配のお客様がお並びの中で、ぶら下がってた大男が暴力団に見られたら拙いって思ったのよ。珠樹の連れ合いを教えなければって、思わずキスしちゃったのよ。ところが列の先頭に押し出されたでしょう。もうお買い物なんか何處かに飛んで行って、貴男がご主人では無くて珠樹の男なんだって見せるのに夢中だったのよ。観光に来た人とは別だってよ。」
「 そうだったな。ワシも慌てたんだ。お前の左手にはリングが無かっただろう。結婚してるのを見せなくてはって思わずお前のキスを受けちゃっただろう。ドウ成る事かと不安だらけだったのに列に並んだお年寄りの拍手には胸を張らなくてはと思ったんだ。」
「 そうよ、珠樹の自慢の彼なんですもの。お似合いを認めて下さったのだからって、貴男がホテルを全部ノーって仰るのがハネムーンをお作りに成るのだって感じたのよ。もうダメ、胸がドキドキして気が遠く成りそうでしたのよ。覚悟が決まったのはレイ・ファン・カルロスが高輪のお屋敷に似て居たので安心したのよ。不思議よ、珠樹が女王様に成った気にさせられたのよ。」
「 レイ・ファン・カルロスは噂には聞いて居たのだ。ツーリストが新婚を認めて呉れたのならって、
其の気に成ったのさ。いや、恐れ入りました。バルセロナがお前の輝きを認めて呉れたのさ。」
「 違うって云ったでしょう。私見てたのよ。列の小母さん達が貴男のおズボンの膨らみに見惚れてお口が閉まらないのね。女が望むのってスペインも同じなんだって思ったら、珠樹が大男にふさわしく無いのは恥ずかしいって思ったのよ。捨てるとか別なんですとかは違うのね。貴男のお嫁さんにふさわしく無ければだけが頭のてっぺんに昇ったのよ。お買い物が何處かに飛んで行って、ハネムーンを作らなければに成ったのよ。」
「 何とかツーリストインホメーションは誤魔化せたけど、まさかレイ・ファン・カルロスがパスポートの提示を求めなかったのには驚いたんだ。気が着いたのさ。普段着で手ぶらだろう。何處かに定宿が有って、バルセロナにはぶらっと立ち寄った買い物客だとな。カードを出したのでは全部バレちゃうだろう。だからタクシーを銀行で停めさせて両替したのさ。此のカードは岩崎バンクのVISAカードなんだ。知らべられたら万事休すると思ったんだが、スペインでこのカードが通ったのは意外だったな。だからハネムーンを通す気に成ったのさ。」
嬉しいなんてじゃ無かったのよ。此れまで
の、お使えしなければが何處かに消えて
ヤー様のお嫁さんを続けなければって
夢中に成ったのですのよ。考えてた芸者珠樹と岩崎珠樹の両刀遣いが現実に成ったのですもの。レイ・ファン・カルロスを一歩出たら岩崎のお嫁さんに戻れば好いのよ。レイ・ファン・カルロスに居る間は芸者珠樹に化ければ好いのでしょう。セックスなんかお求めに従えば好いのですもの。今は我慢できない程は燃えてませんのよ。ヤー様の亀さんが懐かしいだけなんですもの。
でもダメでしたのよ。トレヴィでは左の
太ももの膨らみしか感じませんでした
のに、もうお腹に膨らみが持ち上がって
居るのですもの
いくら何でも此れではディナールームには行けないでしょう。今夜は目一杯空にして、明日の朝は部屋食を辞退できる様に頑張る心算でしたのよ。殆んど覚えて居ませんのよ。でも明るく成っておトイレに駆け込んで出て居らした時の亀さんは、お辞儀して居ましたのよ。チャンとボクサーパンツの左に治まったので――――もう好いでしょう。エルコルティングレスに入った時は岩崎珠樹に変身して居たのですもの。