人を待つ――――違うんです、

       帰って来て呉れる人が居る幸せ

を、初めて感じましたのよ。そうなんですのよ。どうして気が着かなかったのでしょう。珠樹の心が何と空白だったのでしょう。

       帰って来る彼を待つ焦れったさにイライラ

       して居たのって、なんて自分よがりの

       思いしか持てない女だったのでしょう

共立からの1年と、聖心から帰る4年をヤー様は柳橋で待って居て下さったのですのよ。

       お帰りって玄関の次の間でお母さんと

       お茶しながら、何時でも待って居て

       下さったのですのよ。365日、5年

       替わらずお部屋でお待ちでしたのよ


    何て考えが無い珠樹だったのでしょう。お外で

出迎えたって好いでしょうと、彼のお気持ちが汲めない女だったのですのよ。今やっと判り掛けて来ましたのよ。そうだったのですのよ。聖心に行く日は決まって柳橋のお店で待って居て下さいましたのよ。其のお心が判らないバカな女でしたのね。

       高輪に居ても執事と会う位しか訪ねて

       来るお人は居ないのですのね。だから

       柳橋でお母さんと無駄話をするのが

       彼の日課なんですもの

恥ずかしいよりも、何と彼を思う心が無い女だったのでしょう。ドウシテ高輪の孤独を思って、少しでも早く走って帰ろうとしなかっのでしょう。其れが心なんですのに、

       高輪に居ても何方も来ないから

って、其れって彼の心を無視した珠樹の理屈漬けの心だったのですのね。


    冷たいも何も情けなくなりましたのよ。ドウシテ彼の心を思おうとし無かったのでしょう。此れこそが愛なのに気が着かなかったなんて、もう頭を掻き毟る思いでしたのよ。

       彼は珠樹の他の女性に自由を求めて

       体が欲しい若さを取り戻した

何で其れしか思わなかったのでしょう。

       此れだけ尽くせばご満足な筈なのよ

       彼の自由は拘束出来ないのですから

其れしか思わない冷たい女に成って居たのでしたのよ。愛と彼の自由とは別なんだって決めて居た浅はかな女でしたのね。イーエ、心が無い冷たい女だったのですのよ。彼を心から思うのでしたら、ジーと置屋の奥座敷で珠樹を待つ彼のお心が判った筈でしたのね。


    そうなんですのね。彼は何時でも変わらず珠樹を待って下さって居たのですのね。此れこそが彼のお心だったのでしたのよ。

       何時でも此処で待って居るよ

其れが彼のお心で愛だったのですのね。やっと判り始めましたの。お母さんがジッと彼を待ったお気持ちがですのよ。其れがホントの愛だったのですのね。

    そうなんでした。幾つに成っても、どんなときにも愛が有れば子供を待つ親の気持ちがやっと判りましたのよ。何で心が無い珠樹だったのでしょう。其れで良く、愛を言えたのに怖くなりましたのよ。

       そうでしたのね。彼を愛して居るのなら

       待てば好いのです。何時でも変わらない

       心で待てば好いのですのね。

そうでしたの。珠樹に心が有るのなら、待つ人が居るのこそ愛だったのですのね。其れを何時から彼のお心にすり替えて居たのでしょう。何時でもお店の奥座敷で待って居て下さった彼のお心をドウシテ想わなかったのでしょう。恥ずかしい、お母さんに顔向けも出来ない冷たい女だったのでした。待てる人が居るのこそホントの幸せだったのですのね。少しだけ落ち着きましたのよ。愛の欠片を胸に抱いてね。