「 手ぶらでとは行かないでしょう。」
「 お土産なんか無くても、ハーバードが無視できない遣り方も有るのよ。多くは政治家を使ったり、有力者からってアポを取るのが普通なのね。其んな時間が掛かる事は遣る心算は無いのよ。アメリカには無いお土産をぶつけるのよ。功が見せて呉れた西陣織の千社札が有るでしょう。確か珠樹さんの名刺に成ってるのを使うのよ。マリーの名刺を西陣織で作ってぶつけるのよ。一番自慢が激しい理事を知ってるから、思い切って派手な西陣織が作れないかしら。」
「 あのね、アレって大変なんだよ。小さいとかえって面倒だから、ごまかしが効かない造りにすると1ヵ月は掛かるのだよ。珠樹は6年懸けて100枚作ったのさ。今の時期は急ぎの仕事は無い筈だから、手を回せば10軒くらいは遣って呉れるだろうけど、珠樹は弥太郎さんの顔が効いたから出来たのさ。普通はアンナ小物は作らないのだよ。」
「 そうか、西陣はダメなのね。」
ダメなんて言えないでしょう。電話の向こうには神明町の親方が聞いてるのが見えてるんだ。
「 何とかして見るよ。珠樹の千社札は1カ月かかったから、同じ位を見て置いて欲しいんだよ。ドウするのだって?珠樹の名前を使っちゃうのさ。実は僕も何枚か便乗して作っちゃったのさ。余丁功でね。其の染が残って居れば明日からでも作業に入れるのだよ。まさか余丁功じゃ拙いでしょう。だからそれにマリーを入れたらドウかな。交渉して見るけど、思い切って余丁マリーにしちゃったらドウかな。」
染の型紙は残ってたのさ。丁度手が空いてる工房が何軒か有ったんだ。功を外してマリーを入れて呉れたのさ。千社札を名刺代わりにしたんだけど、マリーのは女用の千社札だったから小型だったのさ。其れを男様に変えて貰って100枚オーダーしたんだ。お値段を聞いたら腰を抜かすから教えないよ。兎も角1ヵ月で間に合わせるって成ったから、マリーには報せたのさ。余丁功の姓はマリーと別れてから弥太郎さんの執事が作って呉れた物なんだよ。余丁って牛込の小さな一角の地名なんだ。北の奉行所と南の奉行所の中間の与力が住んでた土地なんだってさ。関東にはアイヌの地名が残ってる所も多いのだよ。朝鮮の人たちが住んでた所も高麗の呼び名が残ってるのも有るのだよ。日本人って意外に血筋には拘らないのだね。執事が教えて呉れたけど、記縄を通して南方の人が住んでた地域も有るのだってさ。アイヌは狩り民族だから農業には馴染めなくて関東から消えてったらしいんだね。でも地名だけは残ってから不思議なんだよ。昔の人はおおらかだったのだね。