珠樹って生きて居たのでしょうか。自分中心で、珠樹だけの世界を作って暮らして来たのでしたのね。北千住からフラフラと彷徨い出たのは一人に成って初めて一人の怖さを知ったからだったのです。何処かに人が居ないかでしたのよ。人って珠樹と一緒になって遊び暮らせる人を探して居たのですのよ。何と自分勝手な女だったのでしょう。泣くのも笑うのも怒るのも逆らって見たいのも無かったのですもの。血が通ってる人間を求めて居たのでは無かったのですのよ。珠樹が寂しく成らなければ好いお人形を探して居たのですのよ。其れは
さびしく無ければ好い人を求めて居た
だけでしたのよ。何と自分勝手に傍に居て呉れる人を探して居たのでしたのよ。血が通って居なくても好い。寂しい時に居て呉れれば好い人を求めて居たのでした。
ヤー様が共立女子高に入れて下さったのは聖心でバカにされ無い予備校だと思って居たのでしたの。いーえ、人の息吹を知るのに共立の1年を作って下さって居たのですのよ。其れでもまだ気が着かなかったのでした。聖心の2年で寂しさに絶えられなく成ったのでした。
誰れでも好い。珠樹の心の荒れを
満たして呉れるのなら
其れが功でしたのね。彼って何も言わずに珠樹の傍に居て呉れましのよ。其れに甘えて居たのですのよ。珠樹の人で有れば好い。恵まれすぎてるのにも気が着かなかったのですのよ。ヤー様に恵まれ、共立の皆様に恵まれ、功青年にまで恵まれて居たのに、どうして人の温もりに気が着かなかったのでしょう。
なんて馬鹿な女だったのでしょう。バレンシアの波打ち際で4人で波と遊んでやっと珠樹が浮いて居るのに気が着きました。彼とスペイン支局のお姉さんと、パリ支局のご婦人と3人で波に合わせて飛んで居たのでした。何とか合わせようとする珠樹一人が別の世界に居たのです。
ドウシテなんでしょう。珠樹の彼なんで
しょう。3人が輪になって飛んで居るのに
珠樹一人だけ輪に入れないって
岩崎弥太郎さんでも無かったのです。お二人は女性とは違う血が通ったお人だったのですのよ。珠樹は女のお帽子を振りかざしたお人形だったのです。ドウシテ気が着かなかったのでしょう。24年を女だとばかり増長して、傲慢にも人に区別をつけて彼がお一人で居るのを知ろうとし無かったのですのね。
イーエ、おそばに珠樹が居れば、他に誰れをお求めなんでしょうかって自惚れて居たのですのよ。
お二人の執事の方は、お求めに成って
居るのではない。珠樹が居れば要らない
お人なんだ
浅はか何て者では無かったのですのよ。彼をお慕いして商事の椅子を蹴ってまでお仕えして居たお二人に、邪見をし尽して居たのを何とお詫びすれば好いのでしょう。只、ヤー様のお傍に居たいってのを
執事なんて要らないって、バカで済む事
では無かったのですのよ。其れにジッと
耐えて、珠樹を生かして置いて下さった
皆様方に何とお詫びしたら許されるので
しょうか
打ち寄せるバレンシアの波が珠樹の歪んだ心を洗うような思いだったのです。