人は自分はバカでは無いと思ってるのさ。でも薄ノロと言われたくないから僕みたいにアホヅラが出来ないのだよ。元々秀才とも思って無いから、口を半開きにしてアホ面してると嫌われなくて済むからなのさ。子供の時から女の子に興味を持つよりも、お金が集まる不思議の方が興味が大きかったのさ。別にドウって事は無かったんだ。大師橋の上から野犬の群れが競走馬を追い掛けるのを見てたのさ。面白いんだよ。群れの動きって良く飽きないと思う位ワンパターンなんだよ。鞭の練習を1年遣ったら、野犬を追い詰めて空に投げ飛ばすのが面白くて止められ無く成ったのさ。馬ってかなり賢いんだよ。50匹近い野犬を一匹残らず退治したら、僕にすり寄って来るのさ。馬って暑さに弱いんだよ。汗を搔くのはおチンチンの周りだけなんだ。だから多摩川で泳がせると悪ふざけして僕と取っ組み合いをするのさ。だから馬の癖も調子も全部判っちゃったんだ。
馬丁って日雇いの人夫なんだよ。調教師だって調教助手の免許は持ってるらしいけど、殆んどトーシロなんだよ。調教師は僕をバカにしてるからキキには来ないのさ。馬主は聞きに来るんだけど、お金を置いてか無いとウソ半分を教えるんだ。だって其うでしょう。馬の調子は有料の調教師に聞けば好いのに、僕にタダ聞きするなんてズルいでしょう。お金なんか貰っても使うのに困るから、リンゴ箱に入れとくのさ。大師橋の下の小屋なんだ。多摩川って大雨が降っても洪水なんか起こさない川なんだ。雨が降るといろんな物が流れて来るのさ。だから小屋はヘンチクリンな家に作っちゃったのさ。トイレは馬と一緒に多摩川で流しちゃうでしょう。一緒に着てる物も綺麗に成っちゃうんだ。多分ホテルで使ってたらしいバスタブを拾ってお風呂を作ったのさ。何しろ毎日お休みなんだから、流れて来たボイラーを直してお湯を沸かしたのさ。お風呂が有れば流行ってたシラミにもたかられないでしょう。寝るのは進駐軍のトラックが落して行った野戦の寝袋が便利だったのさ。お金って使わないとドンドン溜まって行くだけなんだよ。
「 マリーにセックス教わるまでは、此んなに興奮する物だって知らなかったのさ。毎日遣る事ったら馬を泳がすだけだったんだ。川崎競馬の馬の調子は僕しか知らないから、ノミ屋の組織に加えられたのさ。大師橋の下の小屋がノミ屋の連絡所に成ったんだ。分け前だってお金を持って来るでしょう。リンゴ箱に溜まるだけなんだけど、馬主のオジサンが質屋連合の裏銀行に定期を組むのを教えらて呉れて堪る一方に成ったのさ。遣る事ったら極東放送を聞くだけでしょう。ハッキリ言うとマリーに犯されるまでは、殆んど何もし無かったと同じだったね。」
「 まさか此んな暮らしをしてる坊やが居るとは知らなかったのよ。言葉が通じるだけで真っ白に近い男だったのね。其れから字も読むのを教えたのだったのね。驚いたのは吸収力って言うのかしら、覚える速さで着いて行けなく成ったのよ。2年で別れたけど、まさか此んな男に成ってたなんて―――」
「 少し違うのさ。川崎競馬が再開したけど、ノミ屋組織はヤー様に狙われ出したでしょう。だから逃げ出したのさ。其処で珠樹に会って勉強を覚えさせられたんだ。珠樹って芸者の癖に世の中の何も知らないんだよ。だから裏も仕組みも教えてる内に僕も日本のトップ階級の事も教わったんだ。其れまでは人間って一種類だと思ってたのさ。ドウシテって、二種類の人が居るってのを知ったんだよ。最初は不思議だったんだ。ドウシテ全部違うんかってね。貧乏人と富裕層が有るのは知ってたけど、富裕層にも入らない人が居るってのを知ったのさ。随分考えたよ。やっと人って二種類に分けて考える様に成ったのさ。皆んなが言う平等なんかウソっパチだってね。其れが判れば格差が有るのが普通に思えて来たのさ。皆んなが言う強ければってのは格差の上に居る人には通じないってね。元々僕は強くは無かったから、アホに成って切り抜けて来たのさ。マリーを思い出したら強く成ろうって粋がってたのに気が着いたのさ。今更変わらないとしても、強いってのは相手が有る事だから止めた方がトラブルに巻き込まれないで済むのだよ。」
可笑しな屁理屈かも知れなかったね。