モロッコは世界の広さを教えて呉れましたの。シチリヤのタオルミーナも珠樹の視界の狭いのを教えて呉れました。でもモロッコに行く道の船酔いは好いお勉強に成りましたのよ。珠樹が知らない世界がまだまだ有るのを教わりましたの。船酔いに死ぬ思いの珠樹に比べて、ヤー様の大きくてお強いのを再認識しました。とても珠樹には及ばないお人ですのね。彼に芸者として買われたのが最高の幸せだったのです。其れを忘れて己惚れて居た珠樹を、地中海が懲らしめて呉れたのでした。此れまでの6年は、お背中を流すのが珠樹のツトメだと勘違いして居ましたのね。お互いに洗いっこをして彼の暖かくて大きいのを知りましたのよ。何と自惚れだけで生きて来たのでしょう。
「 其れはワシも同じだったのさ。ローマ支店の若いのが、ろくに仕事も出来ない癖になんて思い上がって居た鼻っ柱を叩きのめされたのさ。ホントを言うとワシだって船酔いで、お前を見る余裕も無かったのさ。ホテルの手配は勿論の事、ボートの中でも彼らがお前を見守って居て呉れたのさ。若いのだからって己惚れてたワシは何だったのだろう。そうか、お前よりチョットばかり船酔いに強かっただけではないか。二人で生きていくのを教えられたモロッコだったな。」
モロッコが私を見直すのを教えて呉れましたのよ。24年生きて来て、なんで真っ直ぐ自分を見直さ無かったのでしょう。たった15時間ソコソコのボートの旅で、これ程までに真剣に自分と向き合ったのなんて、まだまだ子供でしたのね。
「 いや、ワシこそ過去の業績に胡坐を搔いて居たのさ。思い出したら日本の占領軍の親玉のマックと渡り合えたのも、彼の品性の無さに救われて居たのさ。敗戦処理に彼を送り込んだアメリカの姑息にも救われたとは言え、其れに己惚れて居たワシを珠樹が諭したし、今又モロッコがタシナメテ呉れたのさ。シチリヤで己惚れて居たのをな。確かにシチリヤの荒廃を援助するのに繋がると思ってたのは有るな。モロッコに来て其の小ささを思い知らされたのさ。タオルミーナは何だったのだろう。今に成って其のホントが判って来たのだ。アソコは仮の住まいでは無いとな。珠樹とワシの思い出が詰まった住まいなんだ。サルソ川のブドウ畑も二人で組んだ石垣が人生の一部を作って居たのだな。ワシは小さな男だったのさ。モロッコに来るまで何で気が着かなかったのだろう。全部お前と二人で作った人生なんだ。メランコリーで言ってるのでは無いぞ。ワシは失敗を忘れる様にして、巧く行った事しか考え様とし無かったのさ。其れで得たものと言えば、僅かな資産と退職金だけだったのさ。ホントは其れがお前とワシの此れからに役に立てば好いのだったのさ。ブドウ畑の石垣づくりは楽しかったな。お前の汗に光ったハダケタ胸から覗いて居たピンクのニブルスに興奮したのさ。其れが男としてのホントの姿だったのだな。二度とサルソ川に行く機会は無いだろう。其れでも好いのさ。アソコには言うに云えない何かが残って居るのだからな。」
珠樹も同じ気に成りましたのよ。彼と二人で作った初めての土いじりの段々畑でしたのよ。其れで好いと思える様に成りましたの。私には手配が出来ない全てなんですもの。せめて彼と二人で作ってこそ、何かが残るって思えますのよ。