「 此うしてお船の上から地中海が見れるってのは素敵ね。日本の海とは違う海底が見えるのよ。日本だったら昆布や海藻が生えて居るのに、地中海の海底って大理石が光ってるのね。」

    「 其うとも言えないのさ。この辺は川から栄養分が流れて来ないのだな。だから昆布は育たないのさ。」

    一瞬言おうとしたのよ。

        ドウシテ知識に拘るのって、彼って

        岩崎の事から抜け出せないのよ

確かに莫大な知識と資産が有るから珠樹も楽しんで居られるのよ。情緒までは言わないけど、少しはメチャも必要なんだって言おうとしたのよ。でも今が其のタイミングでは無かったのね。ですからメチャを実行に移したの。彼のお背なに飛び付いちゃったの。そしたら前に抱え込んでお口を吸われたのよ。もう完全に覚えて居たから、お父さんのキスを仕様とする彼のベロを吸い込んじゃったの。シチリヤからマルタ島に行く人ったら観光では無いのね。お仕事を持ってる人が殆どだったの。最初は呆れてソッポを向いてた人達も、二人の真剣に巻き込まれて見惚れて居たのよ。クズオレタ珠樹を彼が抱き上げたので、喝采こそ無かった物のお認めに成った風情でしたのよ。此れがマルタ島の第一歩だったのよ。


    入管はイタリアとは違って厳しかったのよ。パスポートは珍しいジャパンでしょう。其れも特別に調べられたけど、ビザは観光ビザでしょう。其れこそ何時間も待たされて、克明に調べられたの。珠樹は岩崎珠樹には成ってたけど、其れもドウ言う関係かを別室で聞かれたのよ。

        芸者珠樹ですってのが不審を呼んだ

のね。半日近く一人で待たされたのよ。

        其んな事も有り得るとはイタリアでも

覚悟してましたのよ。ジッと椅子に座って身じろぎもせず耐えたのよ。やっとエライ様にお目通りできて初めてビザのスタンプが貰えたのよ。イタリア外務省から報せが届いたらしいのね。待って居た彼の胸に飛び付いて泣き崩れたの。其れで彼女を認めて貰ったのよ。


    「 済まなかったな。まさか此んなだとは思わなかったんだ。」

    「 好いのよ、何も教えられて居なかったのが幸いだったのよ。芸者珠樹を通そうとしたの。ビザよりも現物の珠樹が確かなのを信じてたのよ。弥太郎さんは何れは岩崎がバレルとは思ってたのよ。でもマルタでは二人の岩崎を通そうと思ったのよ。しっかりして居れば認められる筈だってよ。」

    「 いや、役人が驚いてたぞ。此んな夫人には初めて出会ったとな。秘密の窓で見張ってたそうなんだ。死んでるのでは無いかと何度も飛び込もうとしたらしいんだ。お前の態度が入管を説き伏せたのさ。」

    ホントの所は必死だったのよ。態度で示すしか無いとは感じてたのよ。弥太郎さんの性を解すのには5年掛かりましたのよ。ご一緒に寝るのも其の一つでしたの。殆どはお風呂でお背中を流すので少しずつお感じに成るのを確かめてからお膝に変えたのよ。此れって珠樹の計画が全てでしたのよ。聖心ではビュイックの運転手さんがお力に成って下さいましたの。共立の1年で、あの方がドライバーのお仕事と弥太郎さんの秘書と珠樹のファンをチャンと区別なさって居るので信頼しましたのよ。全く未知の世界でしたでしょう。共立の帰りに図書館も上野の博物館も芸大も教えられましたの。何も仰らなくても誠心で困らない様な教育なのは知りましたのよ。


    粉屋のお嬢さんも教えて下さったのよ。実家が音羽に有って鳩山様とはご懇意なのもよ。お仕事の内容も全部教わりましたのよ。借入金の額から株の割り当ての全ても教わりましたのよ。其れを総合して考えなさいって突き放されましたの。岩崎で持って居る株も、野村證券の保有株も教えて下さいましたの。ですから聖心の噂には巻き込まれないで自由が通せましたの。あの方にはどれ程感謝して好い物かは今でも忘れませんのよ。


    私のオチャメもチャランポランな所もご承知でしたのね。

        家の娘と同ない歳は

聞かされましたのよ。ですからオチャメを広尾の商店で拡散するのも教えて下さいましたのよ。彼に渡されたカードとは別に、其の日に使うお小遣いを渡して下さったのでした。広尾のお店も全部教えて下さって、お便所を都立の広尾病院のおトイレを使うのも教えて下さいましたの。何しろビュイックで横付けして下さいましたので、ガードマンも見ないフリをしましたのよ。広尾荒らしのお友達も広尾病院に堂々と入って行って、女医さん達のおトイレを使うのを教えましたのよ。其んな処から珠樹は別格扱いにされましたの。


    聖心では育ちやセンスが求められましたの。珠樹は何でもセンスが先でしたので、育ちは云われませんでしたの。珠樹のセンスって、実は考慮を重ねた結果としての思い入れなのですのよ。北千住の貨物を選ぶのにも、何日も掛けて下調べをして結果から寝床に出来る貨車を決めましたのよ。彼もまだ其のホントには気が着いて居ないのですよ。センスって実は一種の思い入れなんですのよ。一瞬で決めるように見えても其の裏には多くの経験が生きてますのよ。聖心の経験が今に生きてるだけなのですの。少しずつはヤー様にもお教えする積りでは居ますけど、今はまだ彼の資産に負ぶさって居るだけですのよ。