「 府中のトレセンでサラブレットの調教を観察して居る仲間は100人居るのだ。調教が終わるとトレセンの食堂に集まって、調べたデータを付け合せするのさ。真剣勝負だから勉強には成るけど、仲間の信頼を裏切らない為にはサラフレットの一飛びの四肢の動きに目を凝らして、見落としが許されない厳しい調査なのさ。」

    「 何度か連れて行って貰ったから判ってるわ。男の厳しさをね。でも女には違う厳しさが有るのよ。お話は聞くけど、女とは違うのも判って欲しいのよ。」

    「 立場が違うから聞いて呉れなくても構わないさ。仲間内では一番若い僕に話しかけて来るのは何時も素面だからなのさ。其れに僕は意見を言わないでもっぱら聞き役り回るからなのさ。大抵が子供さんの話なんだ。僕に言って来るのは誰れかに聞いて貰いたいからなのさ。つまり真剣に聞くのが話させる極意なんだ。此れって意外に難しいのだよ。つい裏を読んだり何が狙いなのかを考えちゃうでしょう。人の気持ちって微妙に通じ合う事が有るのさ。僕が其れを考えたら、まず話は横道に逸れちゃうね。何も考えないで話を一句ずつ聞き取るってのは自分の思いを捨てなければ出来ないのさ。忠告できるのは、娘たちが答えを求めて来るのじゃ無いって事なのさ。判って居る様でもつい、自分なりの思いを持っちゃうでしょう。僕が必ず遣る事は、相手の顔を見ない事なのさ。テーブルに両手を出して他意が無いのを態度で示すのさ。同じにとは言わないけど、娘たちは16歳でマリーとは18歳の開きが有る所から、ドウシタラ話して呉れるのかを考えるのが先だと思うのさ。」

    難しい顔をして考え込んだよ。いろいろ教えたいけど、其れこそ今日一日で焦ったらムダに成るのさ。