来たのは列車では無かった。オレンジ色の新しく出来た電車だった。東京の山手線と同じ形の電車だった。熱海からの混雑を予想してたのに、意外にも空いてたのさ。今の時期は通勤通学を外しても山手線の混雑は凄い物だったのさ。其れがガラガラの電車では気味が悪いと感じたんだ。山手線とは違って向かい合って座れる席にゆっくりと足を延ばして腰をずらして座ったんだ。不思議に此れが話し易い姿勢だったのさ。


    「 東京駅に着くまで話そうよ。ドライバーが居ないから彼女たち足止めを食ってるのさ。明日戻れば好いから、今夜の午前までは話せると思うよ。」

    だから戸田には戻ら無い心算で話したのさ。

    「 僕は君が考える様な複雑な男じゃ無いのだよ。単純だから意外に吸収する力が有るのさ。珠樹を知るまでは、格差の中に居ても同類の人達から離れなかったのさ。底辺から見てる世の中のいびつなのを上の社会に居る珠樹から教わったんだ。其れで社会の格差の全てを教わったのさ。下でウヨウヨ生きてたのから、雲の上の世界を素直に見れる様に成ったんだ。其れを受け容れる事が出来たのは、単純って言うかフリーで居たからなんだよ。だから単純には思い掛けない吸収力が有るのさ。マリーは複雑な世界に長く居過ぎたのさ。あの10人を、彼女たちと楠さんから離れて見てご覧。意外に教えられることが多いのだよ。」


    僕は意識してでは無かったけど、根津から離れた戸田が向いてたのが娘達から距離を持つ事に成ったのさ。離れるってのは意外に見えて来るのだよ。彼女たちが大学を目標にして焦ってるのも見えて来たのさ。根津中では十文字に狙いを着けたから学校に縛られる事が無く過ごせたのさ。十文字では其うも行かなく成ったのが彼女たちには第一の誤算だったのさ。根津中と同じ様に成らないでしょう。其の焦りが十文字の先を見る目にも狂いが出始めたんだ。外から見てると其れがカナダとマリーのハーバードを知った戸惑いに成って出てるのさ。仮にハーバードが日本の大学生活の次の段階だとすれば迷いは少なかったと思うのさ。いきなり彼女たちの中にハーバードが飛び込んで来たでしょう。だから身分相応って言うのか、自然の流れを忘れちゃったのさ。今のマリーも似た様な立場なんだ。自然に僕が呼んだのを受け取れば良かったのさ。其れを根津とゴッチャニしたからマリーの賢さが逆に足を引っ張ってるのに気が着かないのだよ。今のマリーに言ってもムダなんだ。賢さが逆に働いてるのに気が着かないからなのさ。だから娘の事を言って、そっちに引きずって行くしか無いと思ったのさ。


    「 僕は時間を区切ってしか考えられ無い性格なのさ。其の先に踏み込んだら整理が着かなく成っちゃうんだ。だから十文字を卒業するまでとして考え様よ。普通だったら2年先に成るけど、何人かはずば抜けた子が居るから飛び級も有るかも知れないね。」

    「 マリーも其れは考えて居たのよ。だとしたら1年後にはバラバラに成るのも考えて置かねばってのも有るのよ。」

    「 じゃあ単純に1年後から考えれば好いのさ。其処でなんだが外から見てると大学が目の前にちらついたばかりに、其の取捨選択に焦ってると思うのさ。だからマリーが単純に考えるのを教えたら好いと思うんだ。先ず体育大は除外できるでしょう。同じやり方で幾つかの大学は消せると思うんだ。単純って消す所から入れば絞るのも単純に成る筈なんだ。其の作業をマリーの心の中で組み立てて置いたらドウかな。」

    ジッと考え込んだよ。複雑なマリーには僕が言ってるのがハーバードやアメリカの大学を消せと言ってる様に聞こえたと感じたのさ。重症は娘達よりもマリーだったのさ。