「 アレッサンドラの奥様がお手伝いして下さるのは嬉しいけど、ホテルはご主人お一人で大丈夫なのかしら?」
彼に大笑いされましたのよ。
「 ワシを現役回帰させたのはお前なんだぞ。営業マンの現役に戻れば、赤字など出す物か。心配して呉れるのは有り難いが、ワシがシチリヤに入れ込むばかりだと考えてるのなら余計なお世話と言いたいのさ。チョット教えとくけどシチリヤに観光客を呼べないのならアレッサンドラだって締めるしか無くなるのさ。何時シチリヤの観光が復活するのかは判らないが、少なくてもパレルモにリラが落ちる様に成るまではアレッサンドラは開店休業を続けて貰わなくては成らないのさ。当面の維持費として年間契約をして有るが、閉鎖するよりは経費は掛からないのさ。何れはご亭主も暇を見て来る筈なんだ。其れを見越して家の改築も進めて居るのさ。」
其れで判りましたのよ。ベッドだって三つ運び込みましたのよ。奥様をお泊めするだけでしたら此のファッビアーノでもお宜しいと思いましたの。
「 おいおい、余計な所に気を使うのでは無いぞ。シチリヤに長く滞在するのなら今のシチリヤでは困るのさ。此処には五つの山と地中海の自然が溢れて居るのさ。少しだけ手を加えればイタリアの観光の先駆けに成る筈なんだ。わずかな投資だが何れは返して貰う心算さ。アレッサンドラもパレルモでは別格のホテル様式なんだ。お前が此処で遣って居る和の持ち込みが観光に成ると思えば、アレッサンドラも其れに倣えば五つ星のホテルに変身するさ。待て待て、営業マンのワシはアレッサンドラで利益を上げよう等とは考えて居らんぞ。今考えるのはお前と女将が、家をどのように装飾するのかが先決なのさ。後1ヶ月有るな。其の1ヶ月でドウ作るのかが、アレッサンドラの将来にも掛かって来るのさ。」
驚きましたのよ。彼の方がタオルミーナに本腰をお入れに成って居たのね。お顔つきも引き締まってシチリヤに肩入れ為さるご様子が読み取れましたのよ。
明くる日の朝早く、ご主人がお見えに成りましたの。珠樹の和装のお部屋のセッティングをご覧に成って彼と相談為さって居ましたのよ。
「 決まったぞ。ローマ支店を呼ぶことに決めたんだ。船便では間に合わないから貨物機をチャーターしたぞ。柳橋の女将に西陣を見繕って持って来させるように手配したんだ。そうだったな、珠樹の衣装も暫らく借りるぞ。イタリア向きの小物も揃える様に手配する心算だ。何だ其の顔は。見世物には成りたくないだと。其の時はスイスにでも逃げだせば好いのさ。ワシの観測ではイタリア観光が遠い先だとは思えないのさ。アレッサンドラも其れに後れを取らない様にしたいと申して居るのさ。少しは手を貸しても好いが、お前もイタリア語を習得するチャンスなのさ。スイスでもオーストリアでもイタリア語で通せるから、今の内に女将を手の内に入れて置くのだな。」
急に忙しくなりましたのよ。彼のお守も程々にして、奥様とふざけてる時間が長くなりましたの。戦争中から数えて10年の上はご主人とお二人の世界しか無かったと申されて居ますのよ。珠樹の悪ふざけにも載って下さいますので、イタリアの言葉と言うよりもシチリヤの砕けた方言が多く飛び交いますのよ。方言って感情を其のままぶつけるのですね。此の方が判りが早い気がしますのよ。