サルソ川のブドウ畑は忘れて仕舞いましたの。

    「 其れで好いのさ。一時は気に入って住む心算だったが、シチリヤ全土に散財しても仕方が無い事だからな。」

    全部彼にお任せしましたのよ。パレルモ市庁舎から手配して頂いて、ブドウ畑の契約はご破算にしましたのよ。当然の様にガイドの契約も打ち切りましたの。少しは心残りが有りましたのよ。あのマフラーに穴が開いたピックアップともおさらばに成るのに抵抗を感じましたの。

    「 誰れにでも同じ様な思いは有るのさ。女が道具を溜め込むのも、捨てられない何かに引っ掛かるのだな。見てるとお前には其の気が無い様だが、捨てるのも度胸が要る時も有るのさ。」

    と慰めて下さいましたの。思えば崩れた石垣を一つずつ積み上げたのがシチリヤを知る手掛かりに成ったのですもの。半年ご年配の農家の方と汗を流したのが5年の聖心から決別する切っ掛けに成ったのですね。サルソ川には其の程度の思い出しか有りませんのよ。


    彼と並んで半年の石垣修復には、其れなりの思いは有りますのよ。でも珠樹が積む片っ端から農家の方がお直しに成ったでしょう。其れが必要だったのは判りますが、珠樹の思いが入ったとは思いませんでしたのよ。タオルミーナニは珠樹の我儘が随所に散りばめられて居ますのよ。和室もそうですし、キッチンの白い大理石のテーブルには、彼と二人の思いが入って居ますのよ。キッチンと申しましても、シチリヤには土地の習わしが有ると思いますのよ。何処まで珠樹の我儘が通るのかは判らないでしょう。確かにアレッサンドラのキッチンをお手本にして品揃いをしましたが、其れとてドウ成る物やらすべて靄の中なんですもの。元々お家に拘る性格は有りませんのよ。良く庭のお花とかペットを何匹もおかいに成るご婦人が居らっしゃいますが、珠樹はヤー様お一人のペットで満足なんですもの。タオルミーナでペットが生まれるのか、ペットにされるのかは自信が無くなりましたのよ。


   パレルモの市場って、珠樹を虜にしましたのよ。

    「 好いじゃないか。完成にはまだ1ヶ月先だと知らされて居るのさ。パレルモが嫌いならタオルミーナに帰っても好いのだぞ。」

    いーえ、パレルモを見直しましたのよ。最初来た時は、一直線に並んだ市場に圧倒されましたの。其れが巧く出来てるのに感心しましたのよ。丁度お腹か空く所に定食屋さんが有りますのね。好きな物を取る仕組みに成ってますのに、一つとして凝ったお料理は有りませんのよ。日本で言う煮っ転がしの煮物ですとか、から揚げや串に刺した焼き鳥も揃ってますのね。皆様串を手で持ってほほばって居られますのよ。ですから食べ過ぎて仕舞いますのに、其の先のお店の品ぞろえは珠樹を虜にしますのよ。面白い並べ方なのですね。正札が着いて居ないお品物は、お店の方との掛け合いに成りますのね。何だか掘り出し物に当たった様な気に成りますのよ。ホントに珠樹の気を引くパレルモのカーポ市場ですのよ。