「 春三、夏六、秋一、冬十っての知ってるか?」
「 知ってますわ。貝原謁見の養生訓でしょう。」
弥太郎さんは目を白黒させたのよ。
「 魂消たな、其れで珠樹は激しいのだな。」
「 残念でした。其んなの聖心の常識なのよ。生徒が持って来る物の中では学術書みたいな物なのよ。お年頃の女の子が集まれば、話題に成らない方が不思議なのよ。別に団体がドウだとか、趣味が何てとは違うのね。其れに参加するかし無いかによって苛めも変わって来るのよ。」
「 そうか、ワシも勉強不足だったな。」
軽く相槌を打って差し上げたのよ。だってもう、言葉が要らない様に成ってるのですもの。珠樹のリズムはメチャクチャなのよ。功に教えられてた様に、弥太郎さんを考えるのはヤメニしたのよ。
彼は過去に引きずられて居るのだ。
其れを崩すのには珠樹の過去も
捨てなさい
ですから中学も、まだ産毛の低学年に突入して見せたのよ。あの時代って性は異性への関心から始まるのね。トレヴィの泉から戻った晩は、お風呂で思い切って彼の胡坐の中に入っちゃったの。此れまでお背中から前に回った時は無かったのよ。トレヴィの泉でファーストキスは卒業したでしょう。高輪御殿のクイーンズで、おチンチンが固く成ってたのは知ってたのよ。ですからお膝の中でシャボンの泡で洗って差し上げたのよ。お顔を見てたら目を細めて我慢して居るのが判ったのよ。其れからの事は云わなくても判って居るでしょう。
「 新婚初夜よ。私中学生なの。お指で開いてるのが判るでしょう。」
其れだけ言うのがやっとだったのよ。最初で最後の勝負だと思ったの。其れからの事は、ハスラーローマの奥様がドクターバッグを持って入って来たまでしか知らなかったのよ。お注射されて7針縫ったのですって。
「 1週間別居が必要ですって、彼から引き離されたのよ。お部屋の夕食が終わってからは睡眠薬を頂いて一人で眠ったのよ。薄々は気が着いてたの。もう知らない。ですからハスラーローマから離れたかったのよ。」
「 そうか、聖心って其んなに荒れてるのか。」
よっぽど聖心を守って挙げようと思ったのよ。でも彼の楽しそうなお顔を見て居たら、聖心にお持ちだった恨み節を消そうとは思わなかったのよ。珠樹もアタックするから、彼も珠樹の23歳と並ぶまでは敵を其のままで置いとこうと思ったのよ。
「 聖心のアバズレに掛かって居らっしゃい。」
昨夜までの40歳はかなぐり捨てて、30歳そこそこで圧し掛かって来たのよ。恐いのやら嬉しいのやらでドウ成ったのかは覚えて居ないのよ。
「 明日早くにコインランドリーに行かなくっちゃ。婦人警官が起きて来る前に、シーツだけは洗って置かなければ。」
だったのよ。貝原先生なんかどっかに飛んで行って、二人の夜を23歳と35歳で作り始めたの。
「 明日スイスに行くぞ。スイス銀行のワシの預金名義を珠樹に代えるのだ。」
「 其んなの知らないって何度言ったら判るのよ。お願い、此処でもう一度ブドウの収穫を見たいのよ。」
「 其れは判るが、ワシが生きてる内に名義を変更し無いと預金は無効に成って仕舞うのだ。本人が銀行に行って手続きをし無い限りは預金は何百年も宙に浮いてしまうのさ。其れが済んだら帰って来れば好いだろう。」
嬉しいのとは違うのよ。初めて手に入れた幸せが崩れそうになるのが怖いのよ。私って度胸が有ると思ってたのに、彼を手に入れたら急に捨てられるのが怖くなったのよ。柳橋には珠樹だけが動かせる30億が眠ってるのよ。もう其んなのドウでも良くなったの。朝目が覚めたら隣にテントが張ってるでしょう。其れを繁々と見詰めて、
パンツを脱がせて青筋が立ってる
亀さんを見たい誘惑に駆られる
のよ。此んなのって珠樹だけが知ってる楽しみなのよ。スイスのお話は随分聞かされましたのよ。日露戦争でスイスが抱えた戦時国債を、価値が無くなる前の日銀の兌換紙幣と交換したお話なんかをね。日銀に買い取らせて、無期限無利息の融資を岩崎銀行が獲得するので崩壊を免れたのなんかをよ。珠樹は其のお話を聞きながら亀さんを呑み込んで居れば、少しずつでも同格に並べる様な気がするのよ。