「 娘たちに見せたいのよ。十文字に寄って下さらない。」
マリーが何時も使う手なんだ。狙いが何処に有るのかは判らないさ。入学式を明日に控えて娘たちに見せるの反対に決まってるのさ。娘たちを何方かに見せたいのさ。登別で磨いて来たのをね。
旧校舎には父兄と生徒が溢れて居た。僕から見たら高校と言うよりも幼稚園に近い設備の学校だった。其の人波を十数人の先生方が駆け回って整理して居た。ゲートには和田工務店の親父さんが待って居た。僕に目配せしただけでマリーと相談して居た。
「 入れましょう。此の騒ぎからすると、明日の御式は取り止めに成るかもね。」
社長の合図で境界のフェンスが開かれた。旧校舎の数十倍の広がりの校庭の奥に、左右に二階建ての教室を控えた中央に、劇場とも見まごう様な講堂が聳えて居た。
「 そうか、此れを見せ様って言うのだな。」
「 違うのよ。校舎もですけど娘たちを見せたいのよ。新しい十文字が始まるのですから、何もかも新しく成るのよ。建物だけ新しくしたって中身が変わらなければ生徒も親御さんたちも既得権を言い出すに決まってるでしょう。明日の入学式が変わり目の初っ端にするのよ。マリーには私立の既得権が有るのよ。ブーイングが出たら、即座にお式は閉じちゃうのよ。其れには入学を希望して来た50人の他に、明日新たに希望者を募集して居るのよ。2年生と3年生が既得権を言い出すのなら、1年生でスタートしても好いってのが私学の権利なのよ。」
僕の口出しをピシャッと封印されたのさ。
「 此れで大凡の事は判ったでしょう。十文字が気に入らないのなら、カリホルニヤハイスクールの巣鴨分校でスタートすればいいのよ。文部省もドジったのよ。私立学制って全ては定款に元ずく決まりに成ってるのよ。6・3・3制の定款は、GHQが持ち込んだアメリカの学制定款が生きてるのよ。其の変更を国会で行わなかったツケが今生きてるのよ。国会が開かれる前の今だったら、定款に元ずくカリホルニヤハイスクールの巣鴨分校が通って仕舞うのよ。マリーさんを甘く見たツケを、しっかり噛み締めて貰いましょう。」
いやはや私立の学校に定款が有るなんて知らなかったんだ。アメリカ政府が6・3・3制を持ち込んだ時、文部省は旧制の尋常小学校やら専門学校・旧制高校や帝大や単科大学の複雑な学制を維持するのに躍起に成って、私立校の学制の変化を見落としたのさ。日本の既得権は、徳川幕府から延々と引き継がれて居たのさ。有る意味其の既得権で平穏が保たれて居たとも言えるのだよ。
「 目が覚めたでしょう。良いのよ、十文字に娘たちが入ろうが日本の高校を選ばなくても、世界はあの子達に開放されてるのよ。マリーと功がタックを組んで居るのですから、皆さんオリンピックにウツツヲ抜かして居れば好いのよ。此の十日で娘たちは十文字のはるか上を行くのに決まったのよ。其れに楠さんが着いて来れないのなら、ご自分で姥捨て山を探す結果に成るのよ。保護者の既得権は残して挙げたけど、娘たちに何が必要なのかを考えない様なら、姥捨て山が待ってるだけなのよ。」
魂消たね。10日の計画では無かったのさ。戦略は着々と練られて居たのさ。
マリーが持ってるアメリカの利権なんか
今では力が薄れて居る筈
が、物の見事に打ち砕かれたのさ。
「 そうよ、全部オーストラリアと功の後押しで復活したのよ。マリーだって6年お勉強をしたのよ。此れからは、功を陰で援けるのよ。表立ってはミセス功にして貰うけど、マリーが役に立つのも知って貰いたいのよ。」
そうだったのさ。呼んだ時からマリーが変わって居たのに気が着か無かったんだ。考えが甘かったね。元々マリーの底力って凄かったんだよ。其処に気が着くのはマリーが先だったのさ。
「 好いのよ、功は大きく稼ぐペットなのよ。マリーが飼い主では無くて、功がマリーを飼って呉れれば全部丸く収まるのよ。」
が言いたい北海道旅行だったのさ。