「 楠さん、何を考えてるのかしら?」

    「 ドウだって好いでしょう。皆んなに取って楠さんが毒に成るか得に成るかが問題なんだよ。」

    「 功って何時からそんなに冷たくなったのかしら。一度は上も下もお世話に成った人でしょう。其の人を思えばこそ何とかしたいと思ってるのに。」

    「 マリーは尊敬してるよ。だからと言ってまだ甘チャンが抜けないのだね。一つには楠さんを根津の家政婦として置いておくのは10人の娘たちの暮らしに必要だからなのさ。二つ目は2年も破格のお給料を払って置いて居ても、お給料に見合う働きはして居ないのだよ。一つの例として山田さんを見殺しにしたでしょう。2年前に女衒と争った勝手な行為を言う心算は無いよ。今の娘たちが其れを忘れて居るからなのさ。でも山田さんは拙かったね。大人を自認するのなら、子持ちで住み込んだ山田さんをもっと知るべきだったのさ。マリーに来て貰ったのは楠さんをドウコウなんては思って居ないんだ。既に3年近く遣りたいようにヤラセテ置いたのさ。娘たちが順調に根津の暮らしを受け容れて居たから、楠さんは居ても居なくてもドウって事は無い存在だったのさ。此れまでは好いとしても十文字が始まれば其うも言ってられないでしょう。私立の教育機関を知っているマリーだからこそ、新学期からの十文字には対処できるのだよ。十文字が求めて居る物は白人でも無ければ黒人も関係が無いのだよ。僕の調べでは2流の私立高校から3流か4流に落とされる寸前の高校なんだ。むしろ其れを意識していたかどうかは別としても、娘たちの選択は見事と言うべきなんだ。十文字なら僕の資金を生かせると考えてたフシが有るのさ。だからマリーだったら十文字を2流以上の高校に持ち直せると思ったからマリーに任せて居るのさ。仮に楠さんが此れまでと同じに暮らしを作って居ても、高島屋って手が有るのだよ。マリーなら其れを使えると思って居るのさ。」


    「 判ったわ、楠さんは今まで通りで好いってなのね。」

    「 まだ其処から先に進めないのかな?あの人が買春を甘いと考えて居るのなら買春の昔に戻るね。買春時代に自由が有ったとは思って居ないよ。御徒町の仲間の中でもただ一人、神田市場に入り浸って居たのだよ。別に神田市場で利益が有ったわけでは無いのだよ。あの人が求める先には何時も利益が絡んで居たのさ。其れを神田市場に来て小母さん達に冷やかされて居ても居座って居たのは、仲間からは疎外されてたからなのさ。其れを見越して根津を預けたんだ。買春が嫌で足を洗ったのとは違うんだよ。僕が提供した30万の月給に魅力が有ったからなのさ。ホントは娘たちの責任からは逃れようが無かった筈なんだ。其れが逆に娘たちが楠さんの独立を援けてる様な形に成ってるのさ。マリーがカナダ旅行をしてた時も、根津中に関係ないのを素早く察知してのほほんと暮らしてたのさ。其の点ではかなりのやり手なんだ。でも此れから同じでは困るのさ。僕は冷たいと思われようが一向に気にしてないよ。気にしてたらあの人が買春に戻るのをドウコウ考えるでしょう。タガも嵌めないし自由に泳がせて置いたのは、あの人がドウ生きようと娘達には関係が及ばない様に仕組んだからなのさ。根津中の保護者を拒否したってのは、その様な立場に居たからなのさ。マリーが居なかったら僕が出なければ成らなかったんだ。其処は感謝してるけど、逆にマリーの力を十文字で奮って貰いたいのさ。」


    「 其処まで考えてたのね。呆れたお人ね。」

    「 だから言ってるでしょう。楠さんなんか屁とも思っちゃ居ないんだ。冷たいとかお高く留まってる問題では無いのだよ。1年先なんか考えられ無いけど、少しは先も思ってたのさ。マリーが来て呉れれば楠さんの代わりなんか高島屋が遣って呉れるよ。むしろマリーに取って十文字は絶好のテストケースだと思ってるのさ。7年先のオリンピックを先取りできるのはマリーのハーバードだと思ってるんだ。結婚して生まれる子供までは思いが行って無いよ。だけど十文字でグローバルが必要に成れば、マリーのハーバードは其の線でも生きて来る筈なんだ。其れをドウ生かすのかはマリーの腕に掛かってると同時に、マリーの7年先にも生きて来る筈なのさ。其れまで必要な資金を溜めるのに必死なんだ。楠さんなんかドウでも好い存在なんだよ。」

    お説教の後始末は決まってるでしょう。偶には真面目な話して終ろうよ。