「 楠さんを気に病むのが可笑しいのだよ。あの人は今の仕事に満足して居るのさ。確かに僕との契約では月給30万円で根津の寮を管理することに成ってるね。只寮の管理を言ったのは、根津の先なんか考えては居なかったからなんだ。確かに東京農協は破格の条件を持って来たよ。青森農協の破産を救う条件として、青森出身者の保証が必要だとね。つまり形だけの書類が必要だったのさ。当時の農協の経理は、昔ながらの大福帳式の経理の処理だから、理事の独断で自由に動かせて居たのさ。農林省が管轄に乗り出したので、正式な書類が必要に成っただけなのさ。確かに娘たちの戸籍は根津一丁目の此処に移ったよ。年齢も18歳で戸籍が作られたのさ。当時はまだ海外から帰国する人たちが居たので、農協の保障が有れば戸籍を作るのは簡単だったのさ。保護者は青森出身の楠さんにしただけなんだ。書類上は其う成って居るけど、娘たちを孤児として登録するための保証人だから、文部省の届けの保証人は僕でもマリーでも構わないのさ。確かに僕は、オーストラリアの国籍を持ってるよ。マリーはアメリカ国籍とオーストラリア国籍しか無いでしょう。其れだって十文字では文部省に届け出る義務は無いのだよ。其処が私学の自由だから、楠さんが保護者を務めないのなら、マリーに変えればいいのだよ。」


    「 簡単に言って呉れるわね。保護者の件は其れで済むとしても、日常の家政婦のお仕事はドウシタラ好いのかしら。」

    「 マリーが遣るより無いでしょう。楠さんは辞めないって。買春の他には仕事が無いのだよ。根津を放り出されたら、其の日から住む所にも困るのさ。娘たちを女衒の手から奪った責任なんか言っても楠さんは空っ恍けるに決まってるでしょう。世の中を渡り歩く手管は知ってる人なんだ。心の中では娘たちを救ったのをご自分の力に仕様としてるのさ。8年の付き合いが有れば僕が現実しか認めないのを知ってるね。だから現実で追い込めばいいのさ。」

    「 じゃあマリーに何をさせようとしてるのよ。」

    「 判ってる癖に僕を責めないで欲しいね。根津で娘たちが十文字に通うのは現実なんだよ。十文字が飛び級を認めないとしたら、3年は通わなければ成らないのさ。だから家政婦の仕事はマリーが奪う様に仕向ければ好いのさ。ドウ足掻いても楠さんは根津からは逃げられないのさ。其れを腹の中に閉って置けば楠さんは家政婦を通すしか無いのだよ。十文字の保護者はマリーが遣っても構わないさ。其の為にマリーには珠樹の岩崎銀行のカードと僕のカードを渡して有るでしょう。十文字の資産関係は知らないけど、私学としての歴史は浅い筈だから支える様な卒業生は居ないと思うのさ。何だったら寄付金をポンと積んで理事に収まったら好いのだよ。此れからの私学はアメリカとの連携が学校の格にも成るのだよ。だったらハーバードの出身を表面に出して、アメリカ国籍を有利に働かせれば、十文字を乗っ取るのだって簡単なんだ。深入りを勧めはし無いけど、オリンピック後の日本には黒人のハーバードの学士さんも必要に成って来ると思うんだ。だから手始めに十文字の理事の椅子を手に入れても好いと思うのさ。」


    マリーは乗り気に成ったよ。私学も高校の理事なんか面倒なだけで、真面目一徹のマリーに重荷に成るのは見えてたんだ。どっちにしても日本の狡さに対応できるまでに育てるのには、僕の手が外せないのは覚悟してたんだ。

    「 保護者は何とか乗り切れるとは判ったわよ。でも日常の家政婦なんかマリーにはムリなのよ。」

    「 だから家政婦を遣りなさいなんて言って無いよ。楠さんは逃げられないのだから、其処に追い込むのを考えれば好いのさ。マリーは遣り始めるとのめり込むから難しいとは思うよ。だから一つずつ決めて、先ず洗濯から始めるのさ。ホントは適当を覚えて欲しいんだけど、其うも言って居られ無いでしょう。だから最初は選択の部分を決めて、其れだけを洗うのさ。干すのもいい加減にするのだよ。マリーのやり方だと一つずつチャンと伸ばして干すでしょう。其れを遣ったらダメなのさ。だらしなく干せば楠さんからダメが出るでしょう。

       マリーはダメね。お洗濯ものは

此うして干すのよってね。わなを仕掛けるのも日常では必要なんだよ。マリーだったら先ず真面目な罠を仕掛けるのさ。バレテモ元々の罠をね。其うして一つずつ、日本社会の巧妙さを覚えて貰うのさ。世界の金融事情については抜群の巧妙さを知ってる癖に、ドウシテ日常の狡さといい加減を知らないのかな。僕がコーチに付くから、一つずつだらしが無いのを覚えて貰いたいのさ。試しに楠さんの仕事を奪うしぐさを見せるのだよ。

      家政婦位、マリーが代行します

ってね。罠を覚えろとは言わないけど、楠さんを追い込んでもあの人の仕事は売春しか無いのだよ。僕の為に遣ると覚悟して欲しいのさ。」

    疲れるけどショウガ無いでしょう。マリーのしなやかなセックスを思い出したらマリーからは逃げられないのだからね。