今晩わ、二日休みましたがまだ頭がボンヤリして居ます。雪の箱根地獄谷から大観荘に戻って、冷えた体を温泉で元気を取り戻しました。僕はまだ、仙石原の雪煙の中にトナカイを頭の中で作った娘たちの空想の世界に泳いでいます。夢とは違いますが、粉雪が舞う中にドリームを作った娘たちの夢の世界から抜け切れないのは、僕と楠さんと山田さんのお嬢さん三人だけなのです。すでに10人の娘たちは温泉のお湯を掛け合って現実の世界に戻っているのです。

    此の転換をわずか2年で自分の中に取り込んだのは若さだけでは無いでしょう。楠さんに言わせると、

    「 大学まで見通す先が見えたのが、あの子達にとっては将来を思う気持ちに変わって来た様なのよ。」

なんだけど、そればかりとも言い切れないのさ。僕はヒタスラニ、12歳の輝く産毛に圧倒されて居たが、此処に来て展開が素早い能力を見た思いがしたのさ。ヤヤコシイ言い方を訂正すると、整った顔立ちの中に隠されて居た賢さを知ったのさ。


    12年の暮らしの中に先を見る余裕が無かったのだね。いや、先を閉ざされて居た12年に、突然大学まで見える環境が与えられたのさ。其れを何も考えずにやり過ごす娘が多い中で、彼女たちはしっかり腰を据えて暮らし始めたのさ。楠さんは根津の寮の日常に流されて、将来を思う暇も無かったのだ。僕は理屈を振り回して現実のノミ屋をウトンジてたのさ。理屈で言えばノミ屋から身を引きたい思いが強かったんだ。1953年に毎週億と言う儲けが有る商売なんか少なかったのさ。其れを理屈で

           褒められた仕事ではない

なんて決めつけて、根津の寮で楽な暮らしに溺れてたのさ。


    いや、溺れる寸前だったのさ。やっと戸田の小屋に戻ったけど、雪のお蔭で三日の休みが取れたので箱根に来たのさ。確かに白一色の仙石原は見事だった。僕には粉雪が舞う吹雪は素晴らしいとしか感じなかったね。ところが10人の娘たちは、青森でも見慣れた雪景色だった筈なんだ。その見慣れた雪吹雪の中にトナカイを呼び出した脳の構造の変化は、娘たちが自分で作り上げた変化なんだ。その素質はすでに持って居たのだよ。其れに気が付かなかった僕の迂闊さと言うか、娘たちの本質を見抜けないで若いフェロモンの溢れる体にのみ興味を持って居た男だったのさ。


    箱根湯本の大観荘に戻って娘たちの希望を聞いたのさ。

    「 ドウスル?明日までお休みが有るから行きたい所が有れば聞いて置くよ。」

    一斉にブーイングを浴びたんだ。

    「 此んな贅沢は二度と来ないかも知れないのよ。昨日止まってた車は帰った様なのよ。この旅館は私たちだけに成ったみたいなのよ。今夜は寝ずに暴れられるわ。楠さんもお疲れの様だから、山田さんは私たちが面倒を見るわ。今夜はお二人で飲んできても好いのよ。」

    いや参ったね。12歳、もう14歳に成ってるけど、其の小娘に鼻面を引っ張られる感じだったのさ。楠さん一人ホッとしてたんだ。

    「 そう、山田さんのガキを遊ばせて呉れるって言うのね。嬉しいけど、貴方たちの手に負える娘じゃないのよ。一晩預かってくれるのは嬉しいけど、何か目論見が有るのでしょう。言って御覧なさいな。」


    娘たちの狙いは判ってるさ。小守のオネダリを僕に言ってるのはね。

    「 判った、此れで手を打たないか。今夜のディナーに懐石料理を加えるってのでドウかな?なんだ、まだ不足なのか。だったら小田原で好きなように買い物をしても好いってので手を打たないか。」

    結局一人5万円で納得したのさ。大観荘の厨房でも、何のオーダーが出るのかとビクついてたんだ。懐石料理なら小田原の仕出し屋に運ばせれば好いのだよ。大歓迎で連泊をOKしたのさ。スクールバスで娘たちを小田原のデパートに下ろして、楠さんを繁華街の宝石店に誘ったのさ。

    「 結婚し無いお付き合いをと思ってたけど、リングはプレゼントするよ。君の気に入ったので好いから、僕の初めての贈り物なんだ。なんでも好きに選んで好いよ。」

    半べそだったね。もう選ぶどころでは無いので僕が選んだのさ。金庫を開けさせて、

    「 此の中から好きな物を選んだら好いよ。何の石だか僕にも分らないけど、どうだろう?色で選んだら好いのさ。此の黄色がかった石なんかどうだい。」

    店の主人は揉み手で勧めるのさ。

    「 お目が高い、昨日入りましたイエローダイヤです。1カラットに少々及びませんが、ダイヤの中では数少ない逸品なのです。お求め頂けるのでしたらご主人様にもお似合いのダイヤが御座います。此れなどは如何でしょう。」

    それも貰うのに決めたのさ。

    「 東京を離れた小田原だから、本物で無くても好いのだよ。記念品だと思えば気楽に指に嵌められるでしょう。何だい其の深刻な顔は。君には何も挙げた事が無いから、記念だと思えば料理で壊れたって気にし無いで嵌められるでしょう。」

    久しぶりに泣きべその楠さんを見たのだった。