「 メルボルンに1ヶ月居ると決めたんだから、市街だけで無く出来るだけ観光し様よ。」

    「 イヤよ。アメリカでも観光ってのお金を捨てる様な物なのよ。ホントのアメリカには似ても似つかない所に案内されるのよ。メルボルンを知るのなら、寂れた裏町に本物が有るのよ。」

    其う来ると思ってたよ。観光って言ったけど、僕は1ヶ月をムダに過ごそうと考えてたのさ。僕もマリーも、チャンとした屋根の有る住まいに住んだ経験が無いのだよ。そりゃ、無駄に成るのを承知で家を買う気に成ってたのさ。だから3軒で10万A$と決めてたのだ。何がムダに成るのかなんて判りっこ無いのだよ。だから1ヶ月でムダを覚えようとしたのさ。

    「 此のインターコンチネンタル・リアルトは気に入ってるんだ。だから此処を足場にして、其の日の内に帰れる所まで足を伸ばそうよ。メルボルンはずーとシドニーと競り合ってたらしいのさ。だから観光地のシドニーには行けない貧乏人を装うのさ。役所に行けばお金が懸らない普通の食堂だとか公園なんかを教えて呉れると思うのさ。」

    やっとマリーは納得したね。


    「 其うか、其の手が有ったのね。でも此のインターコンチネンタルに滞在してると知ったら、お金をふんだくれるに決まってるでしょう。」

    笑っちゃったんだ。やっと本物のマリーが顔を出したのさ。ふんだくるってね。

    「 だから此れからプライスダウンの交渉をするのさ。」

なーに、カウンターのキーボートには、ズラッとキーが並んでるのさ。だから1ヶ月のロングステイを条件にして値切ったんだ。マネージャーは50%の値引きを言って来たよ。商売ってのは、先に請けた方が負けなのさ。だから其の上10%引かせたんだ。

          其れで結構です。ただしお部屋を

          変わって下さい

部屋は動かなかったよ。だけど条件を出したのさ。

    「 此れから役所に行って公園だとか学校なんかを紹介して貰うのです。判るでしょう。費用が要らない観光をするのです。其の分此処のディナーのランクを上げて貰いたいのです。僕たち南部の料理しか知りません。マナーも何も自己流ですから、其れを正式に教えて欲しいのです。授業料は払います。アメリカ流のチップは小銭が常識ですが、着いて呉れたウエイトレスの人にはグリーンバックを差し上げます。」

    アメリカ人のドルで何でも通そうとするのを表に出したのさ。イヤな顔をされるのを計算に入れて、ゲスなアメリカ人と見て呉れれば好いのだよ。恐らく役所にも連絡するだろうさ。シドニーにはアメリカ資本が雪崩れ込んでるのを逆に利用したのさ。

         ドルを振り回して居るアホなアメリカン

だとね。此れがマリーの黒人意識を逸らす効果も狙ってたのさ。先ず1ヶ月で反応を見て、1年でオーストラリアに溶け込める様にね。3軒の家と1年一緒に暮らすのが武器と云うか、生きてく上でのテクニックなのさ。


    市役所には行ったよ。イングランド様式の暗い役所なのさ。

    「 此れがUKとも言えるのさ。いや、僕はイングランドは勿論の事、世界の何処も知らないよ。だから好き・嫌いで云ったら、大嫌いな建物なんだ。大抵の人は其の意識をそっくり役所の人たちに持ち込むからスムーズに行かないのさ。判るでしょう。オーストラリアに来てまだ間が無いから、圧倒されっ放なしだって思わせるのさ。インターコンチネンタル・リアルトを選んだのも外観のお城に圧倒されたと見せるのだよ。其れなら出来るでしょう。」

    「 そうか、ニガーの観光客って有り得る筈が無いのよね。其れを逆手に使えば好いのね。宝くじが当たってドルを手に持ったから、何も知らない綿畑で働いてた女に変身すれば好いのね。其れだったら得意なのよ。」

    マンマと嵌ったと言うか、少なくてもハーバードは表に出さなく成ったのさ。ホーキンズのアウトドアルックに着替えさせたんだ。此れがマリーの細身に似合って、何とも言えないお色気が出たのだよ。ご本人は鏡に映して

    「 此れってトップモデルにも負けない感じなのよ。此れだったら立ちションしても文句は言われないわね。」

    其うだよ、なんて言えないでしょう。事に依ると男たちを振り向かせるのじゃ無いかと思ったんだ。計画を外れた効果だったね。実は此れがホントのマリーだったのさ。


    学校って、一番お金が懸らない庶民の暮らしを考えてたのさ。ところがメルボルン大学を紹介されたんだ。ブランズウィック通りに近い大学だった。僕はイヤだったよ。ところがマリーは興味を示したのさ。

    「 判ったわ、此れって写真で見たオックスホードのレプリカよ。入って見ましょう。」

    いや、わが物得たりって感じなんだ。

    「 何て狭まっ苦しいのでしょう。此れだったらハーバードの方がよっぼと立派よ。」

    拙いとは思ったけど、マリーの大学評価はやっぱりハーバードから出発してたのさ。

    「 ほら、此れが階段式の教室なのよ。大學って何処も似た様な物なのね。其れだったらレストランが有る筈よ。」

    いや、流石だった。迷わず学食に入ったのさ。オックスホードに真似たってのは、学生もイングランドに染まってるのさ。ソーサーを持ったマリーに順番を譲るのさ。マリーも背筋が伸びて軽く会釈して輪に溶け込んだじゃない。僕は見物してる側に廻ったんだ。だって学食なんか知らないでしょう。

    「 全部大学のサービスなのよ。何処でも学生はお食事にお金を使わないのよ。ですからサービスに違いないってのは直ぐ悟ったのよ。」

    参ったね。其う言われてもマリーのモテ様には気が気じゃ無かったのさ。