「 戸籍を新しくするって、では前の戸籍はドウ成るのかな。」

    「 何十通りもの遣り方が有ります。死んで削除するケースも有りますし、婚姻若しくは養子縁組等で削除するのが多いのです。其れでも原本には残りますが、其れを消す場合も有ります。少しヤヤコシク成りますが、故意に戸籍を作られた場合です。例えば本人の承諾なしに婚姻の届けが提出された時が其れに該当します。此れを消すのは法廷に提訴するしか有りません。最近では憲法の個人の権利の侵害に当たるとして、強制的に消去されるケースも有るのです。最も単純なのは捨て子のケースですが、此れも将来の異議を見込んで、複雑な過程を踏むケースが多いのです。珠樹様の場合は、ご本人のご希望を斟酌して、一旦前戸籍を抹消したのです。此れでしたらご姓名を含む全戸籍を抹消しましたので、新たに珠を姓とし、名を樹として戸籍を作られたのです。」

    「 おぼろげには聞いてました。珠樹は申して居りましたが、戸籍には拘らないけど、本人その物を消したいと思った様です。ですから全て、聞き流した心算です。僕は変わった考え方をするのです。要らない知識はサッサとゴミ箱に捨てて仕舞うのです。今でもそうですが、必要な知識も要らない知識も区別が着かないのです。ですから入って来た知識は一旦は受け取っちゃうのです。其の選別は自分勝手に決めるズルさを持って居ます。其れは置いても、元の戸籍はドウ成るのでしょう。」

    二人の執事は相談して居たよ。


    「 最も簡単な方法は、お住まいを外国に移すのです。此れでしたら日本国内でのアラユル不都合に巻き込まれる恐れは少なく成ります。新憲法では徴兵の義務は有りませんが、納税の義務だけは残ります。従いまして国籍その物を移せば、日本国内でのすべての義務と権利は消滅します。しかし他にも手段は有ります。出生その物を不当に作られたと提訴すれば戸籍を消す事は可能です。此れには長い時間とご本人の出廷・証言を求められますので、現実には成立した件数は僅かなのです。仮にご家族全員の戸籍を消す事も出来ますが、此れとて現実にそぐわないのはご承知かと思います。珠樹様の場合は、血縁関係が全て断たれましたので、前戸籍を消したのです。如何でしょう。功様の場合は、此れまでの暮らしを何処まで残すかによって扱いは変わって来るのです。残すと申しますのは、出生からご両親との関係まで残すと成れば、二重戸籍を作る結果に成るのです。仮に8才からのお暮らしからスタートするのならば、それ以前の戸籍を作れば好いのです。つまり0才から8才までの戸籍は残りますが、其れ以後は行方不明として抹消手続きが可能なのです。如何でしょう。全て功様のご生涯を何歳からお始めに成るのがお決めください。其れに元付いて戸籍を作ります。」

    いや参ったね。元々戸籍を何とかし様とは思ってたよ。だけど頼む相手も居なかったでしょう。珠樹の戸籍が作られたのは聞いてたから、彼に頼めば何とか成るのは知ってたさ。其れを遣ったら珠樹と旦那を巻き込む事に繋がるでしょう。だから殆ど諦めてたのさ。

        戸籍なんか無くても生きて行けるさ

位に考えてたのさ。


   「 最も簡単なのは、功様の0才からの戸籍を作るのです。此れでしたら出生その物の関係は生じません。前戸籍は行方不明として停止すれば好いのです。しかしご幼少で有れば可能な処理ですが、お勧めは出来ません。如何でしょう。先ずご希望のご年齢をお決めください。珠樹様の場合は18才を其のままで戸籍に反映しました。現在のご年齢のご希望をお決めください。其れが最も現実に即したやり方だと存じます。」

    其う言われても困っちゃうのさ。

    「 希望って云われても、腐るほど有りますよ。先ず免許が欲しいのです。二輪免許です。白状しますと芝浦埠頭でハーレーに乗ってたのです。あれは好きでは無かったのです。心の中ではイギリスのトライアンフに乗りたかったのです。今でも自動車よりもオートバイの欲望が強いのです。珠樹を後ろに乗せて世界中を走って見たいのです。狂ってますね。其れは諦めます。でも何かと云うと免許が有れば便利でしょう。有れは何歳から取れるのでしょう。マリーが言うのには、国際免許―――――いけませんね。忘れなければと思い続けて来たのです。返事は待って貰えませんか。」

    結局その日は此れで終わったのさ。困惑したお二人を残して電車で帰ったんだ。やっぱり僕には、莚の小屋が似合ってたのさ。