「 此んなに長く、お話が出来たのはお宿のセイかしら。」
「 其れも有るとは思うよ。何か拾い物をした様な気分なんだ。でも珠樹の芸者に話が行ったのは、宿の女将さんが火付け役だったと思うんだ。もっと突っ込んで言うと、ご主人は奥さんの芸者に拘ってるのだね。凄くカチンと来たのでよっぽど宿を変えようと思ったんだ。だってそうでしょう。3年通って身請けに納得させたってのは、お客に言う話じゃ無いのだよ。女将さんはドウ思ってるか知らないけど、3年を云うのは其れだけ苦労したって威張りたいのさ。口説くのは勝手だけど、僕は意味が違うと思うんだ。珠樹は言ってたでしょう。
囲われるのは我慢するけど、少しは楽しませて
って。ハッキリ言うと芸者に限らず、男女ともに一晩独占される囲われ型も有るね。俗に言う枕芸者だけど、其れだって売春とは違う場合も有るのだね。好きなタイプの男だからうける時も有ると思うよ。落ち込んでる時かも知れないし、其れで区切りを付けようとした時かも知れないでしょう。珠樹は彼に独占されるのを認めたってのが身請けなんだね。男が女を独り占めするってのは難しいのさ。今の僕は珠樹に夢中だよ。嫌われるのが怖いから、他の女性には目も呉れないなんて言わないよ。だってそうでしょう。映画でマリリンモンローを見たら素敵だと思うのさ。例え一瞬でも珠樹から目が逸れるのが男だと思うのさ。珠樹は彼の独り占めから逃げ様とは思って居ないね。
彼を旅に連れてって上げたいから足を鍛える
ってのは、暮らしの中に思い遣り―――彼を一人にし無いって想いを云ってるのだよ。其れが珠樹の身請けその物を認めてる形なんだ。宿のご主人は、一緒に暮らしたいから身請けしたのじゃ無いでしょう。此の宿の女将に成って欲しいから芸者を止めさせたのだよ。男って何処まで行っても自分勝手だけど、客の僕たちに其う言ったので女将は出て行っちゃったのさ。話の裏には芸者その物をバカにしてる想いが見え隠れしてるのさ。そもそも其処が間違ってるのだよ。」
「 私、其んなに自慢できる女じゃ無いのよ。両親の自殺もあの人は知らないのよ。お調べに成ったとは思うけど、私も黙ってるし、あの人も其れには触れない様にしてるのが見えるのよ。功に言ったのは、7年経っても私の心には残ってるのね。うずきって言うのかしら、時々フッと思い出すの。思い出すのとは反対なのよ。私の想いを邪魔してるのよ。私、何で功に引かれるのか判らないのよ。でも不思議なの。お膝でお弁当を食べてる時も、毎日違うのよ。心臓の響きが聞こえる時も有るし、考えてるのが判る時も有るのよ。其れが迷ってるのが伝わって来るのよ。おチンチンのもぞゝゝと其れを抑えようとしてるのが判るのよ。
珠樹、まだ我慢できる。我慢して
ってね。セックスは一度しか知らないけど、少しずつ覚え様としてるのよ。胸が締め付けられて我慢できなく成りそうだから、隠してる胸の内を吐き出しちゃうの。スッキリして
まだまだよ
って成るのよ。苦しいのと、新しいモヤモヤが繋がって来て
功が好きなのかも
と考えるのよ。普通の女じゃ無いのね。」
答えるのは知ってるよ。襲い掛かってヤッちゃえば好いのさ。其れこそ動物の解決なのさ。僕の経験では
男が別の時間を作る
方法が有るのさ。時間って、今の時間をワープして次元を変えるのさ。此れが普通に考えたら難しいのだよ。僕は突然切り替えるのが好きなんだ。物も言わず肩車にする手も有るよ。珠樹は昔を云おうとしてるのさ。告白とは違うんだ。云って自分を過去に押し込めようとしてるのだよ。
知ってる顔に会わない土地に行って見たい
が、やっぱり芸者珠樹から逃げられないのを押し付けられたのさ。彼女の経験では、此れを断ち切るのは出来ないのさ。ズルズルと引きづって行くしか無いのだよ。だから会話をぶった切っちゃうのさ。
「 八王子って多摩川の上流なんだ。朝ご飯を断って、お結びを握って貰って行って見ようよ。」
ねっ、お腹は空いてるよ。眠気も襲ってるさ。其れを異次元の世界に飛び込むのさ。若さの権利と云うか、僕たち二人だったら一日倒れない自信は有ったのさ。もう明るく成って居た。浴衣の珠樹を部屋に残して、台所に行ったのさ。
「 川が見たく成りました。出掛けますので朝ご飯は抜きます。」
此う言えば、即席の弁当としてお結びを作って呉れると計算したのさ。部屋に戻って珠樹を裸にしたよ。案の定、主人が飛んで来た。
「 背中を見せちゃえよ。此れが芸者ですって。」
珠樹も悟ったよ。浴衣で前は隠して背中を向けたのさ。ピカイチの背筋なんだ。呆気に取られてる主人に
「 出掛けます。思い立ったら止まらないのです。多摩川の上流が見たく成りました。奥様にお伝えください。2万円置いて行きます。又来たく成ったら来る心算です。」
此れがお結びに繋がらなくたってドウって事は無いのさ。
「 此れが芸者のお姿なのよ。売春婦と同じでしょう。」
いや、言って呉れるよ。
女が欲しく―――奥様が欲しく成ったら
女の背中から迫ってご覧なさい
なのさ。判らなくたって構まやし無い。
女将は芸者じゃ無いのよ
其れが判らないのなら、逃げられたって首を括るしか無いのよって宣言なのさ。女将が追い掛けて来てお結びは受け取ったよ。
お世話に成りました
珠樹は其れしか言わなかったね。やっぱり日本一の芸者珠樹だった。