9月に入ると様相は一変した。芝浦港のセンターポールには星条旗がはためいて居た。マリーはスカートを脱いで、正式な大佐の迷彩服に着替えて居た。髪はアップにして、此れも迷彩を施したヘルメットを着用して居た。10人のならず者たちも、身分証は持たない物の戦闘服に身を固めて居た。岸壁には2艘のタグボートが停泊して居た。

    例年の台風シーズンに入って居た。今年は珍しく風も無い晴れ渡った秋空が広がって居た。其処へアメリカ海軍独特のネイビーブルーに塗られた貨物船が入って来た。船橋には陸軍の戦闘服を着用したならず者がパイロットを務めていた。タグボートに船腹を押された貨物船は接岸した。貨物船のウインチで降ろされた木箱は、次々とトラックに積まれて居た。ボースンの指図で木箱は新設の港湾事務所の裏に卸された。

    「 何が始まるのですか ? 」

    「 見れば判るでしょう。戦争仕様としてるのよ。」

僕は驚いて聞き返した。

    「 何処とですか。敵の姿が見えませんね。」

マリーは笑って答えた。

    「 見える筈は無いでしょう。フィリッピンの海賊の襲撃に備えて居るのよ。来たのは海軍の貨物船よ。下ろした箱は戦闘に備える武器なのよ。此処では解体しません。東京湾を外れたら木箱をバラシテ武装する手はずに成ってるのよ。私の服装は此処に来た時渡されて居た正式な大佐の戦闘服よ。ドウ、意外に似合うでしょう。10人は偽の陸軍だけど、私はレッキトシタ大佐なのよ。何れは功にも戦闘服を着て貰うわ。大丈夫よ、戦争なんかしませんけど此処は占領軍の港を正式に表したのよ。タグボートは横須賀から来たのですが、東京湾では私が一番位の高い将校なのよ。指令なんて後にも先にも初めてだったけど、此処で目を光らせて居れば東京湾を支配してるのと同じなのよ。」

    納得なんか出来ないよ。芝浦埠頭が正規のアメリカ港に模様替えしたのは判るけど、僕は関係したく無かったのさ。

    「 じゃあ、木箱の中身を見せて上げる。」

と、蓋をこじ開けて覗いたんだ。入って居たのは脂紙に包まれた機銃だった。

    「 まだ早いけど、何れは此れをジープに装着するのよ。2か所のゲートに置いて、戦闘態勢が整ったキャンプにするのよ。何をビクツイテルのよ。此処は占領軍の港なのよ。私はたった一人で此の港を守ってるのよ。功は占領されてるのを忘れてたのでしょう。来た時居た30人のGIも、10人のならず者に代えられちゃったのよ。3年がかりで判ったんだけど、あの10人は船と港のプロなのよ。私はレッキとしたアメリカ政府軍の大佐なのよ。ですから港を守る武器を調達したって当然でしょう。」

    反論なんか出来ないよ。初めて見たけど戦闘服に身を固めて胸には従軍記章が光ってるのだよ。

    「 当たり前でしょう。此れが私の身分証よ。彼らは民間人ですから船員手帳がパスポートに相当するのよ。此処に居る間は芝浦港のパイロット手帳が身分証なのよ。でも直き船が来る手筈に成ってるのよ。そしたら彼らは船員手帳で世界の港に行けるのよ。私は彼らが戻って来るまで此の港を守るのよ。少しは功にも手伝って貰うけど、イヤとは言わせないわ。」

    何れは此うなるとは思ってたさ。だけど木箱で武器を持ち込むなんて遣り過ぎも好い所なんだ。占領されてるのは仕方が無いとしても、僕は競馬で暮らしてるのだよ。そりゃ裏からの競馬だけど、戦争には一切関係が無いのだよ。


    「 何をグダグダ云ってるのよ。私と出来ちゃったのが功を占領軍の端っこに据えたのよ。其処へ持って来て、300万ドルで10人を煽ったのよ。あの人たちは民間人だけど、連れて来たのはMPなのよ。あの人たちを軍のキャンプに放り込めば、GI扱いをしたって文句は無いでしょう。私を大佐にしたのはアメリカ政府なのよ。ハッキリ言うとアメリカ軍には拘束されるイワレは無いのよ。ですから大佐の身を守る準備をしてるだけなのよ。功は大佐を強姦したのよ。刑務所に入りたく無かったら、ボランティアとして働く義務が有るのよ。アメリカの刑法には誰でも犯罪者を捕える権利が有るし、ボランティアとして強制労働させる権利も有るのよ。ですから性犯罪者の功は、キャンプの要員としてボランティアを務める義務が有るのよ。何を変な顔をしてるのよ。私を抱いたらもう逃げられないのよ。覚悟為さい。」

    アメリカの刑法なんか知らないよ。だけどアメリカのキャンプに入ってアメリカの大佐と出来ちゃったんだから、今更言ってもドウ仕様も無いのだよ。何も10人のならず者を援けようなんて思って無かったさ。只マリーがミスボラシイかっこをしてたんで、要らないお金を持って来ただけだったのさ。其れが占領に加担したと言われても困るのさ。そりゃ、あのならず者たちは僕に味方して呉れてるよ。マリーと遊びに出ても何も云わないでしょう。第一マリーが甘やかすからいけないのさ。僕をじゃ無いよ。10人を甘やかしてるのさ。好きに遣らせてるから此んな事に成るのだよ。貨物船が運んで来たアメリカ軍のPXで使う品物を横流ししてるってのは泥棒なんだよ。其れを黙って見ぬフリをしてれば、共犯なんだよ。違うね、マリーが主犯なんだ。だから刑務所に――――えーい、コンガラカッテ判らなく成っちゃっただろう。やっぱり僕のお腹の上でバイブルを呼んでるマリーが一番好きなんだ。