「 ねえ、光が暗くなったと思わない。」
「 其れは感じて居るよ。此れまでだったら谷底はキリに包まれて見通せなかったでしょう。時々カスミが解けて、見える様に成って来てるのさ。おかしいと思ってたけど、ダムの水も前見たいに底の石っころまでは見えなく成って来て居るのだよ。何だが爆発が近いと思う様に成って来たんだ。」
おケイは悲しそうな顔をしたよ。云うのじゃ無かったと思ったのに、
「 そう、ケンも気が付いてたのね。若しかすると救助隊が間に合わないと心配に成って来たの。」
そう云われても、救助隊だって信じられ無いのだよ。光のドームが此処だけだったら救助の望みも有るけど、外の様子は全く闇の中なんだ。事に依ると地球全体が、同じ様に閉じ込められて居るのかも知れないのさ。おケイの希望を潰す事は出来ないから、話を変えたんだ。
「 先ず僕らで脱出出来るかどうかを考え様よ。車が手に入ったのは希望には違いないが、今の所電気が使えるってだけでしょう。車のエネルギーも何時まで持つかも判らないのさ。其れを思うとどうしても戦って見たいんだ。」
おケイにコッピドク叱られたのさ。
「 ケンは焦ってるのよ。戦うって云っても、まさか20ミリと手投げ弾で光の化け物と戦えるとでも思ってるの。先ず落ち着いて、救助隊を待つのが正しいのじゃ無いかしら。」
其れは判って居るさ。だけどアメリカでの経験では、先手を打ったからこそ生き残って来れたのさ。現実には守るってのは戦うのより難しいのだよ。今の僕たちは守りに入って居るのさ。ドウ考えても戦って来たのは攻撃して来る町の奴らとだけだったのさ。光の化け物とは戦えないってハナから諦めて来たけど、此処に来て光のエネルギーが変化してるのに気が付いたんだ。確かにおケイの言う様に、鉄砲や手榴弾では敵いっこ無いさ。だけど何か考える時には来てると思うんだ。
「 まだ判らないの。まだ光の化け物と戦える状況では無いのよ。先ず農家の小母さんが谷底のテントで暮らしてるのよ。今は車には近付けないけど、車のエネルギーが減ったら、あの女車に乗りたくでウズウズしてるのよ。背後に邪魔する女が居るのに、化け物と戦える訳が無いでしょう。」
そもゝゝ、あの農婦に情けを掛けたのはおケイなんだ。此処に来て其れが邪魔に成るからって、僕に何とかしろと云ってるのだよ。攻撃して来れば戦えるけど、タダの被害者を装って居るのだから殺すなんて出来ないのだ。不思議な感覚だったのは、車を引き揚げたら妙に気持ちにゆとりが出て来たのだよ。此れまでは邪魔する者は戦うと決めてたのに、変に攻撃するのを躊躇う様に成ったのさ。油断とは違うと思うんだけど、やっぱり油断かな。
「 此処に居るとおかしな気もちに成っちゃうのさ。煙が出てたからパン屋に行こうよ。」
で、リヤカーを引いて出掛けたのさ。コンバーチブルで行けばと思ったのに、リヤカーが恋しくなってパンの材料を積んで出掛けたんだ。
「 おう、待ってたぞ。丁度粉が切れる所だった。姉ちゃんも相変わらずキレイだな。」
竈の前にペタンと座るのは何時もの事だった。
「 小父さん、今日はチャンと履いて来たのよ。何故だか判る ? 」
「 判るぞ、匂いがするからな。パンが焼けたら持って帰るが好い。此の若者に大事にされるのだぞ。」
僕も気が付かなかったのに、さすがは歳のセイなんだろう。おケイを引っ張って来たのを謝らなくてはと思ったのさ。焼けたパンを貰って帰ろうとしたら、銃声が轟いたんだ。店に向かって一段の人たちが押し寄せて来た。
「 やっぱり来おったか。マグナムで脅して置いたので来ないと思ってたが甘かったな。」
チョッキを着て20ミリを構えたのに、僕の肩に銃身を置いておケイがシコルスキーを撃ち始めた。まだ射程には入って居なかったので暴徒の一団は身を伏せてライフルを撃ち始めた。僕の闘争心にも火が着いた。
「 行くぞ、メットを被って背を低くするのだ。チョッキに入って居れば大丈夫だが、20人は居るぞ。店の裏に廻った奴も居ると思わねば成らないぞ。前の20人は消すから捕まってろよ。」
久しぶりに血が湧いた。走りながら3連射でなぎ倒した。
「 裏に廻るぞ。」
呆然と立ち竦んで居る主の傍をすり抜けて店の裏に廻った。将に裏口から入ろうとして居た男を跳ね上げた。至近距離からの20ミリは男を粉砕して粉みじんにした。他にあらてが居ないのを確かめて、
「 お店を汚しました。掃除しますので許して下さい。」
主人は手を振った。
「 好いんだ。後は儂が遣る。其れよりも娘を手当てして遣れ。今の騒動で血が止まらなく成ったのだろう。可哀そうに、お前には言えなかったのだな。」
そうだったのか。僕が気が付くべきだった。
「 ご免よ。何時もより早いので忘れて居たよ。我慢できるかな。」
返事なんかし無かったよ。チョッキの中に深く潜り込んだのさ。