吸入ステロイドのシクレソニド(商品名オルベスコ)の投与により症状改善 | nishimura-ultraのブログ

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こんにちは皆さん、西村です。

オルベスコ投与で症状改善した新型コロナ3

2020/03/03

 神奈川県立足柄上病院は32日、吸入ステロイドのシクレソニド(商品名オルベスコ)の投与により症状改善が得られた新型コロナウイルス感染症(COVID-193例の詳細を日本感染症学会のウェブサイトに掲載した。3例はいずれも胸部CTにてすりガラス影を呈する肺炎像が見られ、入院中に酸素が投与された。


 現在、重症化が危惧されるCOVID-19症例に対してはファビピラビル(アビガン)やロピナビル・リトナビル(カレトラ)などの抗HIV薬の投与が有効とされており、国内でも複数の抗HIV薬を用いた医師主導治験が行われている。


 一方、国立感染症研究所は219日に行われた「新型コロナウイルス感染症への対応に関する緊急拡大対策会議」にて、シクレソニドがCOVID-19に対し強い抗ウイルス活性を有すると報告した。シクレソニドとロピナビル・リトナビルを同一濃度で比較したin vitro研究では、シクレソニドはロピナビル・リトナビルと同等、あるいはそれ以上のウイルス増殖防止効果がみられたという。なお、シクレソニド以外の吸入ステロイドの抗ウイルス作用は現時点では認められていない。


 シクレソニドは抗ウイルス作用と抗炎症作用によるウイルスの早期陰性化や重症肺炎への進展防止効果が期待されるため、投与時期は感染初期~中期あるいは肺炎初期が望ましいとされる。保険収載の成人用量は400μg/日(最大投与量は800μg/日)だが、COVID-19のウイルス増幅時間が68時間であることや肺胞に十分量の薬剤を到達させる必要があることから、頻回かつ高用量の投与を推奨。かつ、残存ウイルスの再活性化および耐性ウイルスの出現を避けるため、14日程度以上の投与が望ましいとの知見から、現時点では下記の用法用量を標準とすることが提案されている。


COVID-19陽性確定者の肺炎に対して

1)シクレソニド200μg12回、12吸入を14日間

2)シクレソニド200μg13回、12吸入を約9日間


 用法用量は(1)を基本とし、重症例、効果不十分例に対しては(2)を検討する。また、ウイルスは肺胞上皮細胞で増殖するため、深く吸入することで効果が高まると考えられる。


 足柄上病院はクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号に乗船していた新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR検査陽性8人を受け入れた。全員が65歳以上で、8人中6人に酸素化不良と胸部CTにてすりガラス影を呈する肺炎像を認め、そのうちの3人にシクレソニドが投与された。


3例中1例は入院時から肺炎を呈し、ロピナビル・リトナビルが投与されていた。ロピナビル・リトナビルの投与により炎症の急性期は脱したものの、酸素化不良が継続し、同薬剤の有害事象と考えられる下痢、肝酵素上昇、食欲不振が出現。CT所見も増悪傾向を示したため、ロピナビル・リトナビルを中止し、シクレソニドに切り替えたところ、急速に快方に向かったという。なお、いずれの症例もシクレソニドの投与により酸素化が改善した。


 COVID-19に対するステロイド治療はウイルス血症を遷延させる可能性や糖尿病の合併症が指摘されているが(Clark D Russell,et al. Lancet.2020;395:473-75.)、シクレソニドはプロドラッグの吸入薬で血中濃度の上昇は微量であるとされる。その安全性に加え、簡便かつ安価であることから、シクレソニドの早期投与の効果が確立されればCOVID-19の治療に大きなメリットをもたらすと考えられるため、今後の使用症例の蓄積と検討が望まれる。


出典:日経メディカル