国滅びるときの状況は、国家民族共同体の存立の要件に関する感受性の鈍化であろう。
 その感受性は、我が国を取り巻く内外の情勢を本能的に感じることから研ぎ澄まされる。

 しかしながら、現在の状況を眺めるとき、マスコミの論調も政治家の意識も、我が国存立に関する感受性が欠落していると思われる事例が連続しているように思える。
 つまり、国が滅びる方向に傾斜していると憂う。
 その事例を二つ挙げてみる。

(1)まず、原発再稼働について
 この先、原発が再稼働しなければ、我が国の電気料金は相次いで値上げされていき、家計や企業経営への重大な打撃となることは必至である。
 そこで原子力規制委員会は、六月十九日に福島第一原子力発電所事故を教訓にした新たな規制基準を決定し、それは七月八日に施行された。
 そしてさっそく、全国の電力各社は新基準に基づく原発の再稼働の許可を申請した。
  
原子力規制委員会には、新基準を作った以上、速やかに再稼働申請を審査し、適合しておれば一日でも速く再稼働を認めるべき任務がある。
 何故なら、再稼働が遅れ電気料金の値上げの連鎖が起こると、家計と企業の力が衰えて、我が国家衰退への傾斜が進むからである。
   
 (2)沖縄のアメリカ海軍HH60救難ヘリの墜落について
 この度、沖縄で墜落したHH60救難ヘリの四人の乗組員は訓練飛行中であった。墜落して、一人は死亡し三人は重傷を負って病院に収容されている。
 日本政府と沖縄県の対応は、HH60の墜落に対してアメリカ軍に「厳重抗議」である。本日(七日)は、外務省高官がアメリカに行って国務省次官に「厳重抗議」したと報道されている。

 一体、「厳重抗議」だけでいいのか。
 このHH60救難ヘリは、二年前の東日本大震災の被災現場に急行し確実に救難活動を実施している。この活動が緊急時に可能なのは平素に日々訓練に励んでいるからである。
 さらに彼らのこの訓練は、現実味をおびてきた尖閣に対する中共軍の侵攻に対処するためのものであり、訓練自体が中共軍の侵攻を抑止している。
 従って、抗議する前に、不幸にして異境で殉職したアメリカ軍兵士への追悼とその家族とその部隊の仲間に対するお悔やみ、そして負傷者の速やかな回復を祈ると、何故、日本政府は、特に防衛大臣は、一言、言わないのか。

 時あたかも、中共の脅威に対する日米共同機動展開訓練が始まったばかりなのだ。この訓練は、昨年の民主党政権時代には、民主党の言う「政治的理由」で行われなかった。
 しかし、本年六月、アメリカ西海岸でアメリカ軍と陸海空の自衛隊の水陸両用共同訓練が実施された。
 海上自衛隊の輸送艦に乗り組んだ陸上自衛隊西部方面軍の水陸両用戦専門部隊が強襲揚陸訓練をし、海上自衛隊の護衛艦艦上でアメリカ軍のオスプレイの着発艦訓練が行われ、イージス艦「あたご」による対地上陸支援艦砲射撃も実施されている。
 沖縄で訓練に励んでいるアメリカ軍も、これら日米共同訓練に連なる部隊であり、この各訓練が総合されて沖縄そして尖閣が守られているのである。

 よって、我が国の総理大臣と防衛大臣は、これら総体としての日米両軍の訓練の意義を踏まえて、この度のHH60救難ヘリの訓練中の不幸な事故に対するコメントを発するべきである。そうでなければ、いざとなったときに、取り返しがつかない。