あのころの君たち Part.4
突然姿を消した子猫たち。
タマジは段ボール小屋の中で待っていたけど
でもね、タマジはひとりぼっちじゃなかった。
タマジが子供たちと過ごしている間、
ミャーはタマジが来てくれるのを
ずっと外で待っていてくれたんだよ。
シロもやさしく慰めてくれているようだった。
ただ、タマジのおっぱいは
吸ってくれる子猫がいなくなって
私は濡れたタオルで冷やしてあげたり、
時には保冷剤をタオルの上からあててあげた。
そんな時、タマジは仰向けになったまま、
とても気持ちよさそうだったんだ。
そうしているうちに
タマジのおっぱいの腫れも引いてきた。
そしてミャーとタマジは、また以前のように
裏の駐車場で追いかけっこをして遊んだ。
君たちのように・・・。
ミャーとタマジとシロ。
私と遊ぶようになって、
三匹は前にもまして仲良しになったんだ。
そして晴れた日は、よく三匹で一緒に過ごす姿を
見かけるようになったんだ。
雨が降ると、ミャーは軒下のベンチや
ベンダーの裏にいた。
タマジは管理小屋が開いている間は中にいても、
みんなが帰るときは外に出された。
野良だからね。
ミャーやタマジは家を持っていなかったんだ。
「ミャーやタマジはどこで寝るんだろう・・・」
とスーさんに尋ねると
「大丈夫ですよ。やつらバカじゃありませんよ」
ここでは『あるがままに・・・』をみんな貫いていたんだ。
来るものは拒まず、去る者は追わず。
だから管理小屋の中を他の猫が歩き回っても
誰一人、気にも止めず、追い払おうともしなかった。
「寒い日は可哀そうだね」と言うと
「女性トイレの便座の蓋の上で寝るようですよ。
たまに足跡が残っていることがあるから・・・」
そう聞いてから、私は女性トイレの便座の蓋が
ちゃんと閉めてあるかどうか、
よく確認しにいったんだ。
ミャーが管理小屋に入らないのは、
他ならぬミャーの意思だったんだ。
タマジが中に入るように誘っても
ミャーは入ろうとはしなかった。
だから雨が上がると、タマジは外へ出て
ミャーのところへ行ってあげたんだ。
そんなミャーが、意を決して
管理小屋に入るようになった。
管理小屋では時々、
安藤くんがマタタビ・パーティーを開いてくれた。
タマジは時に、オーバーフローの橋の上から、
タマジとミャーの友情と信頼は
日を追うごとに深まっていったんだ。
タマジとミャーは東山湖を訪れる人の心を
そうして木洩れ日の中を駆けぬけるように
夏は過ぎて行ったんだ。
9月の初め、大きな台風があった。
箱根に通じる138号線では大きな土砂崩れがあり、
通行止めになるほどだった。
市内でも大きな木がいくつも倒れた。
その台風の後、タマジは行方知れずになった。
あちこちに捜索願いの張り紙を張ったけれど
とうとう見つからなかったよ。
死んでいるのならせめて亡骸をと思い探したけれど
それも見つからなかった。
そして11月の初め、
今度はミャーがこつ然と姿を消したんだ。
まるでタマジを探しに出たかのように・・・。
今でも時々思うんだ―――。
ミャーとタマジはどこかで再会して
仲良く暮らしているんじゃないかって…ね。
それは君たちが生まれる少し前の話さ。
・・・・・・・・・・・つづく