あのころの君たち Part.5
立て続けに大切な友達を失って心を痛めていた時、
オーバーフローの近くの陽だまりに、
いつも寝ている一匹の猫に出会ったんだ。
陽だまりにいたので私はその猫を
「ひなた」と呼ぶことにしたんだ。
ひなたはミャーやタマジと比べたら、
決して器量よしとは言えなかった。
ありとあらゆる模様が混在していたから、
背中なんか、つぎはぎのぼろ雑巾みたいだったし、
しっぽはギザギザに曲がっていた。
でもどこか果敢なげで、
思わず声をかけずにはいられなかったんだ。
ひなたはとても臆病で、私についてくるくせに
決して近づかなかった。
だから私は管理小屋前の橋のたもとに、
そっとカリカリ(ドライフード)を置いてあげたんだ。
私がその場を離れると、
ひなたはそ~っと出てきて
カリカリを申し訳なさそうに食べていたよ。
このころになって気づいたんだけど
ひなたはほとんど声が出なかったんだ。
よほどひどい目にあってきたからなのか、
生まれつきなのかはわからない。
喉の奥を風が吹き抜けるように
「ヒャ~、ヒャ~」とかすかな声を出していたよ。
それからは、ひなたはいつも
橋の下で私のことを待つようになったんだ。
ちょうど君たちとも出会ったころのことさ。
でも君たちはまだお母さんと一緒で
東山湖デビューはしていなかったんだよね。
春になって、ひなたは身ごもった。
食欲も旺盛で、よく食べた。
花吹雪の中にいるひなたは
心なしか綺麗に見えたよ。
いつもひとりぼっちだったひなたに
新しい家族が出来るんだ。
ひなたはどんなにか嬉しかっただろう。
想像するだけで私も嬉しかったんだ。
そんなひなたが5月に入ると
急にお腹が小さくなったんだよ。
どうやら子猫が生まれたらしいんだ。
ひなたは私が行く時間を見計らって
そして食事を終えるとそそくさと
どこかへ帰って行ったんだ。
もちろん、子猫たちのところへ・・・。
ある日、私はそっと後をつけてみたんだよ。
ひなたは私がついていくのを嫌がらなかった。
むしろ私がついていくのを確かめているように、
時々振り返っては私を見たんだ。
裏の別荘の敷地を抜け、
悪いとは思ったんだけど
私はひなたの後を追って
こっそり敷地内に入っていったんだ。
ひなたは納屋の裏の青いビニールシートの前で
そうしてビニールシートの中に摘まれた
藁の中に姿を消したんだ。
子猫は4匹いた。
それにしてもひなたは
なんていい場所を見つけたんだろう。
これがこれから起こる大事件の前触れだなんて、
私はこのときは思いもしなかったんだ。
・・・・・・・・・・・つづく