田中さん襲撃事件
東山散歩夫人と東山散歩嬢はこのところ、
家に来る猫「ゴンゾウ」の病院通いで忙しくしています。
もともとはご近所の飼い猫で
散歩夫人の家に遊びに来るようになり
殆ど家に帰らなくなっていました。
そのうちゴンゾウが難病にかかっていることがわかり、
見るに見かねて引き取って面倒を見ています。
どうやら猫は飼い主を選ぶようです。
さて、このところ毎日顔を出すロック君。
彼の故郷はネパールだそうです。
お母さんの実家に来ているのですが、
学校には行っていません。
ネパールで一年飛び級をしているので
まだ学校に行かなくてもいいそうです。
今日は初めて散歩夫人と散歩嬢に会いました。
「猫はね、好きな人がちゃんとわかるのよ。
ロックちゃんが優しい子だってわかるのよね」
お友達がいなかったロック君。
今日は散歩夫人たちもロック君のお友達になりました。
「そうだわ、虫取りの名人を紹介してあげるわ」
と、散歩夫人。
管理小屋にロック君を連れて行きました。
管理小屋にはスーさんと芹沢さんがいました。
そしてあの不可解な田中さんも・・・。
シーズンが終わってしまっていて、
出来ずにがっかりしたのだそうです。
スーさんはロック君のことをちゃんと覚えていました。
「この人はいろんなこと知ってて面白いけど
全部信じちゃダメよ。
半分くらいは冗談だからね」
私が言うと、ロック君は楽しそうに頷いて、
私たちとスーさんのやり取りを聞いていました。
そしてやはり田中さんが気になるようです。
「あ、あれは田中さん・・・」
そういって改めてみると・・・、
何か・・・ヘン・・・じゃない
シャツの袖から出た腕が、奇妙です。
「あれぇ? スーさん・・・、
田中さん・・・おかしくない・・・?」
と言ったか言わないかのうちに、
スーさんが突然田中さんを鷲掴みにすると
「え?ちょっと待って 何・・・
。
何なのこれ・・・。
人形じゃないの」
「そうですよ、防犯用の人形ですよ」
「え~っ 何よそれ
私、ずっとだまされてたのォ」
「いえいえ、だましてなんかいませんよ。
田中って言っただけです。
ロック君に注意したばかりの私が
スーさんの冗談に引っかかってました。
田中さんは一人暮らしのOLさんなどが
防犯用に窓辺に置いたりするためのもので
綿入りの等身大の人形でした。
もう笑うしかありません。
「顔は安藤がお面を買ってきて
ペイントしたんです」
どうりで上手に出来ています。
それにしても長いこと私は人だと思って
田中さんを見ていたのです。
先日など、差し入れを持ってきたとき、
こんどは私が田中さんを襲撃してやります
そんなことがあったとは知らず、
東山湖で何が起こっているかなんて知りません。
きょうも窓の中から網戸越しに野鳥を眺めていました。