あの子はおしゃれで髪はばっちりスタイリングされてて流行りのタトゥーブレスレットもこっそり付けていた。少し悪いこともしちゃう雰囲気だったけれど幼い私たちができる悪いことなんて雑貨屋さんに子供だけで行ったり、誰もいない公民館で黙ってコックリさんをするくらいだった。
小さな子にとってはあまり表立っては言えない遊びをする仲。派手な見た目が大人っぽくって、田舎から来た私は私は少し、いやかなり背伸びをしていたけど、茶髪だし、転校生だしってことで、うまく誤魔化せて、遊んでいた。
あるとき、お喋りの内容がよくある家族の愚痴になって、私は怒られるとすぐ世界の終わりみたいに絶望しちゃうから、怒られても言い返したりするなんてすごいって思って聞いていた。
すぐお母さんと喧嘩しちゃうの。
すごいね!
あの子は、笑った。
お母さんはね、ベルトで私を殴るんだから。でもね、言い返す! 喧嘩しても、仲良しなんだよ。
なんて強いんだろう。お喧嘩したり仲直りしたり、お母さんとお友達みたいなんだなって、そのときは思った。
すごくすごく小さいあの子を、大きな大人がベルトで叩く姿は、思い浮かばなかった。
お友達みたいで、仲が良くって。
家で留守番をしているとき、こっそり大人のベルトを自分の部屋に持ち込んで、ベッドに向かって、軽く振ってみた。子供の力だ、ぱしん。
恐る恐る、ジーパンの上から、自分の太ももに、軽く振ってみた。子供の力だ、ぱしん。
軽く軽く恐る恐る振ってみたのに、とても痛くて私はなんてバカなことをしたんだろうと思った。
私は未だに、大きな大人が、あんなに小さな子供を、ベルトで叩く姿は、想像できない。
あの頃はまだ九九を習ってる最中で、私は7の段に苦戦してて、担任の先生はちょっと意地悪で、タトゥーブレスレットが欲しくて、キラキラしたブロックシールも欲しくて、ロケット色鉛筆も欲しくて、ポムポムプリンのプールバッグが宝物だった。