私は福岡市の公立中、公立高に通っていた。市まで明かすのは、この公立の空気というのは、地域性がかなり関わってくるからである。この地域では当たり前、とされることは、他の開放的な地域や学校では、「信じられない」とされた。

といっても、頭髪、眉毛の「体毛管理」は管理教育全盛期ほどの締め付けはなく、
女子の頭髪は染髪、パーマ、シャギーカットが禁止、肩につく髪は耳の下で結髪、編みこみ禁止、髪ゴム・ヘアピンは黒、紺、茶のみ(在学中、何故か黒のみに変更された) 前髪は眉にかからない長さ、それ以上はピンで留める
男子の頭髪は染髪、パーマ、テクノカット禁止、耳や肩につかない長さ 前髪は眉にかからない長さ
こんな程度だった。まあ、普通だと思う。
眉毛は、男女ともに一切の加工が禁止されていた。
床屋で眉を整えられたのだ、と言った男子生徒がいて、彼の眉は少し整えられた程度だったのだが、問題になった。全校集会で、「床屋では眉を触らないように予め言うこと」と大真面目で訓告され、床屋のおじさんも、中学生の眉を少し整えただけでこんな大事になろうとは思わなかっただろう、と可笑しかった。
中学時代、私はたぶん顔のせいで、髪色についてはうるさく言われなかったが、単に色素が薄い子は、目をつけられていた。

高校の規則も似たようなものだった。だが、シャギーは禁止ではなかったと思う。前髪は目にかからない長さとされ、それ以上はピン留め。眉にかかった前髪が解禁されたことに喜んだ。
校則上は結髪位置は決まっていなかったが、ローカルルールとして、頭の高い場所で髪を結んだり、お団子をしていると、注意された。
高校入学後、天然パーマや髪の色が薄い者は頭髪届を出すように、と言われた。私も出した。保護者の判がいる。
眉毛の加工が見つかった者は毎日職員室に呼ばれ、生え具合をチェックされる。女子生徒の中には、毎日昼休みを犠牲にしても、ある程度眉毛を整えたい、という子はいて、ある程度割り切ってペナルティを受けていた。
もっと厳しい学校では、シャギーが一切禁止で、その運用も厳しく、髪の多い生徒はかなり苦労しているときいていた。長髪女子は三つ編みのみ許可、という学校もあった。
私は入学後すぐ、スカート丈で叱られた。膝の下が少し見えていたのだ。制服はオーダーメイドではなく、学校での採寸も適当だった。制服店で購入したままのスカートだった。短くしているんではないかと疑われ、ジャケットをめくるように言われた。(ウエスト部分を折って、スカートを短くするという方法があったので、そのチェックだ)私はヘラヘラとめくり、「そのままなんですけど、背が高いからですかね~」とかなんとかいったのだが(実際丈が足りないというのはそういう理由だろう)、ヘラヘラした答えは教員を怒らせてしまった。膝の下部分が少し見えていることが、そこまで大事だとは思っていなかったのだ。

服装を揃える、髪型を揃える、その意義は理解できる。見た目も美しい。管理されている。
しかし、身だしなみの範疇ですら禁止するのはどうかと思っていた。
年頃に、眉毛が繋がったまま生活するのはしんどい。私も眉毛が濃かったので、目立たないように、眉間や目の下は少しだけ抜いていた。多少抜いても、自然な眉の形だが、それでも本当は校則違反である。

そして、中高生のとき、なにがいちばん嫌だったかといえば、規則の理不尽さもそうだが、なによりも、女子学生のイメージとのギャップが、辛かった。
好きでこんな格好をしているわけではない。好きで眉毛を整えていないわけではない。垢抜けない素朴な子扱いは嫌だった。
それに、今どきの女子中高生、というイメージは、女子高生自身が発信しているわけではない。だからこそ、苛々が募った。実際、眉毛も自由にいじれないのに、女子中高生の破天荒さや、子供らしからぬファッションなど、大人は好き勝手にスキャンダラスなイメージを作る。そして管理する側の大人は規則を更にきつくする。私達は関係ない。大人同士でやってくれよ、全く。
抑圧の末に、校内にあった、アニメ映画「時をかける少女」のポスターにすら、怒りがわいた。こんなスカート丈、絶対認めないくせに、文科省推薦っていって、校内に貼るなんてどういうこと? デフォルメにしても程があるミニスカートだぞ。こんな格好で学校に来ても、教室に入れてくれないでしょうに、と中学生の私は苛々していた。可愛い格好ができないから苛々していたというより、真面目に生活しているのに、締め付けは強まっていくのが嫌だった。真面目で偉いなんて誰も言わないし、靴下のワンポイントは許可していますが、ワンポイントの色は1色までです、とかローカルルールは増えていく。
中学生らしいリンゴのワンポイントがついた靴下が、緑と赤の2色使ってあるので駄目です、とされているのを横目で見た日の夕方、ワイドショーでは恐るべき子供たちとして我々女子中高生のスキャンダルは消費され、雨の日には彼女らの濡れたふくらはぎが大写しにされる。
ミニスカートに髪をおろした女子高生のイラストに清純派女子高生とのキャプションがついているだけでも苛々した。いいから髪を結んでスカートを膝下にして眉毛を繋げろ、と思った。なにが清純派だ。

服装で田舎者扱いされるのも嫌だし(九州では一番の都会っ子だという誇りがあったしむしろ他の地域のほうが自由だったりした)(むしろ制服を着崩して街中を歩くのは田舎者だけだよね、なんて話までしていた。厭らしい会話だが抑圧の裏返しであった)
程度の悪い学校扱いされるのも嫌だし(偏差値と校則の厳しさは関係ない)
なによりダサい子扱いされるのが嫌だった(好きでこんな格好をしているわけではない)

23歳の私にとってはどうでもいいことでも、15歳の私にとっては大事だった。
学生らしくしろと眉毛を整えることもできない子どもが、「らしさ」にこだわっていたのは仕方ないことだろう。

服装や髪型の指定は、まあいいのだ。放課後は自由になれるのだから。しかし、校外にまでついてくる体毛管理の理不尽さは忘れられない。
だから、東京でも、地方でも、田舎でも、都会でも、
素朴で垢抜けてない子どもを見て、私は「安心」しない。
それは彼らの資質ではなく、歯を食いしばって、彼らの美意識からは許せない格好に耐えているだけなのかもしれないのだから。

中学生らしく、高校生らしく。
その基準は学校の中と外では乖離している。
制服を着崩さない、正しく着る。これはそういうギャップが小さいから、我慢できる。太ももが見えるようなスカートや、ぶかぶかのズボンを腰で履くことが、よろしくないとされているのは、わかる。着崩しが「反抗」のメッセージになるというのは、わかる。正しくきちんと着てこそ、というのは制服の目的に沿う。
だが、衣替えの時期、靴下のワンポイントの色、防寒着の着用、下着の色の指定、このような細かいルールは、ただ、理不尽に感じる。マフラーに柄が入っているからといって、地域の方々が、◯◯校らしくないわ、と心配するであろうか? GW前に中間服を着ていたからといって、近頃荒れてるわね、と校外で評価されるであろうか?

TPOを守ることからむしろ大きく外れた、抑圧のための抑圧。気温に沿った格好すらできない制服、下着が透ける制服、機能的でも美しくもない。
「きちんとした格好」をすること、それ自体は美しいと思うが、基本の学校生活まで抑圧するような管理はおかしい。
厳しいと有名な、イギリスのパブリックスクールの写真を見たら、制服姿がずいぶん「だらしなく」見えて驚いた。どれだけ我々の「きちんと」のレベルが違うか思い知らされた。

頭髪届けなんて過去の遺物でしょう、今どきこんな学校あるわけないじゃない、という声にも傷ついた。
私だって、入学するまでこんな学校があるとは思っていなかった。

中学の卒業アルバムの個人写真は、髪の毛が黒く塗りつぶされていた。色素が薄いクラスメイトの髪も、真っ黒に加工されていた。
きっと、ただの慣習なのだろう。写真屋はよかれと思って茶色い髪の生徒を黒髪に加工した。なぜ、自毛の写真すら許されないのか。学校は抗議もしなかったのか。髪色はそのままでよいと言わなかったのか。
明らかな外人顔の私でも、真っ黒に塗りつぶす違和感は、誰も感じていなかったのだろうか。(大体、どんな顔立ちでも元々髪の色が黒ではない人はいるという前提は誰も持っていないのであろうか?)
髪が真っ黒に塗りつぶされた個人写真を見たときの悲しさは、今でも忘れられない。
生まれついた髪色すら認めないことの人権侵害っぷりに、関わった大人は誰も気付かなかったのか。
卒業の一ヶ月前とか、それくらいの時期に配られたなら、私も「この所業はひどすぎる」と抗議したと思うが、卒業の直前か直後だったので、ただ、ぞっとしただけであった。

そんなもの。耐えればいい。
でも耐えたところで、何を得るのか。耐えなくても良かった人々は、こんなこと思い返す必要もないのに。
明文化された規則は同程度でも、ある程度、ゆとりのある運営がされている学校が羨ましかった。服装検査の「爪が伸びていないか」という項目で、爪の白い部分が数ミリ残っているから、と、再検査と深爪を強要されるような、抑圧のための規則がない学校が羨ましかった。別に自由奔放な生活を求めていたわけではなくて、運用にゆとりがなく、全く信用されていないことが嫌だったのだ。いい大人が、爪の形は千差万別ということすらわからなくなることが恐ろしかった。
私は猛抗議して、深爪はしなかった。
でも、諦めて深爪した子もいる。でも、おかしいのは、大人だ。

また、頭髪届と髪色について、Twitterで呟いたところ、
自毛を黒に染めろと言われた、染めさせられた、というエピソードを書いてくださった方々がいた。
染髪禁止、おしゃれ禁止という規則なのに、生徒を黒髪直毛に揃える為に、一部生徒を染髪させようとするだなんておかしすぎる。
しかしそのおかしさは学校内では伝わらない。茶髪で過ごしたい生徒の屁理屈扱いだ。
茶髪=染髪=おしゃれ=特権
そんな扱いなのだろう。生まれつきの髪色なのに。
きっと今も、理不尽な思いをしている子どもがいると思うと、胸が痛む。