1957年制作、1958年公開、フランス映画「死刑台のエレベーター (Ascenseur pour l'échafaud )」。監督:ルイ・マル、脚本:ロジェ・ニミエ、ルイ・マル、撮影:アンリ・ドカエ、出演:ジャンヌ・モロー、モーリス・ロネ、リノ・ヴァンチェラ、音楽:マイルス・デイヴィス。
ルイ・マルから依頼され1957年暮、パリのスタジオでラッシュ・プリントを見ながら即興演奏したというマイルスのスリリングなサウンド・トラック。アンリ・ドカエによる斬新な手持ちカメラを生かした撮影。ジャンヌ・モローのクールな美しさ。
今から半世紀以上も前に制作され、フランス映画の最高賞「ルイ・デリュック賞」を獲得した本作品は、ノエル・カレフの小説を映画化したもので現在でもヌーヴェル・ヴァーグ(Nouvelle Vague「新しい波」、1950年代に始まったフランスにおける映画運動)の最高傑作のひとつに数えられ、サスペンスの金字塔と称されてもいる。
「あの人を殺して、私を奪いなさい」-愛のための完全犯罪。それは15分で終わるはずだった。
ジュリアン(モーリス・ロネ)は、フロランス(ジャンヌ・モロー)の夫が経営する会社に務めていて二人は不倫関係にあった。ジュリアンはフロランスの夫を自殺に見せかけ殺害し会社を出たが、証拠隠滅のため再び会社に戻る。ところが、運悪くジュリアンの乗ったエレベーターの電源が切られ、閉じ込められてしまう。
約束の時間を過ぎても恋人は来ない。フロランスは不安と焦燥でジュリアンを探し夜のパリの街を彷徨う。
若い恋人たちによる偶発的な殺人事件も絡み、狂い始めたひとつの歯車が二人の愛の計画を衝撃の結末へと導く。
ルイ・マルは云う、「私は作品全体を三楽章の音楽のつもりで作った。もともと音楽好きの私は、マイルス・デイヴィスのジャズのエフェクトを全編に生かそうと試みた」。マルの云う‘三楽章’とは、まずエレベーターに閉じ込められたジュリアンの暗くやりきれない孤独感のモティーフで、マイルスの曲「エレベーターの中のジュリアン」がそれを強調する。「第二楽章」はフロランスがパリの街を不安の中で彷徨する孤独な夜。「第三楽章」は若いカップルがジュリアンの車を盗み殺人を犯す無軌道な若さの暴走。
リメイク盤が日本で2本作られている。ひとつは2010年、阿部寛、吉瀬美智子主演による映画版。どのようにリメイクされているのか興味がありDVDで観たが演出も、役者も、音楽もオリジナルの完成度に比べると、その差が歴然とし過ぎている。もうひとつは1993年、田原俊彦、瀬戸朝香主演によるフジテレビの2時間ドラマ。これは観ていないが、言わずもがなだろう。
ジャンヌ・モローの顔がアップで映り、受話器で囁く「もう耐えられない、・・・キスして、・・・ジュテーム・・・」。そのオープニングから眼はスクリーンに釘付けになった。生まれる前に制作されたこの作品は、確か大学1年の時に名画座で観た。25歳の若者の監督・脚本によって作られた映画であることに衝撃を受けた。
後に‘ヌーヴェル・ヴァーグの恋人’と称されたジャンヌ・モローが夜の街を彷徨うシーンはマイルスの即興演奏と手持ちカメラによる撮影により、その不安と焦燥感が伝わり観終わった後もしばらく脳裏から離れなかった。
パリには2度仕事で行った。昨年の冬に行った時、小雨が降る夜の街にひとりで出かけた。コートの襟を立てて石畳を歩いていたら、ふっとこのシーンがマイルスのトランペットとともに蘇った。
学生の時にディスク・ユニオンで見つけたジャズ史上の名盤、マイルスの仏盤サウンド・トラックLPディスクは宝物のひとつで、その貴重なジャケット写真を眺めながらたまにターンテーブルに載せる。


